「こんなときに外へ出たら危ないだろ」怒鳴られて避け続けた自治会長。半年後に知った本当の気持ち
追い立てられた夏の午後
知り合いのいない土地に越してきて、まだ半年もたっていなかった。
近くに家はまばらで、昼間に人の声を聞かない日もある。夫は仕事で出ていることが多く、その日も私ひとりだった。
午後、揺れの知らせが鳴った。私は災害というものがどうしても怖くて、ひとりでは落ち着いていられなくなる。
財布も持たずに家を出て、以前に回覧を届けた自治会長の家まで歩いた。
呼び鈴を押すと、玄関から女性が出てきた。
「どうしたの?顔、真っ青じゃない。とりあえず上がって」
「すみません…ひとりでいるのが怖くなってしまって。少しだけ、いさせてもらってもいいですか」
名前も知らない女性だったが、「いいから座って」と座布団を引き寄せてくれた。
それでも動悸はおさまらず、出してもらったお茶にも手が伸びなかった。
しばらくして、自治会長が帰ってきた。
私の姿を見るなり、会長の表情が変わった。
「何やってるんだ。家から歩いてきたのか?」
「はい…ひとりでいるのが怖くて」
「こんなときに外へ出たら危ないだろ。今日はもう家に帰れ」
思っていたよりずっと強い声だった。
「すみません。迷惑でしたよね…もう来ません」
「いいから、今日は帰れ。家に入って、しばらく外へ出るな」
私はそれ以上何も言えず、頭を下げて外へ出た。
家に戻って薬を飲み、雨戸を閉めた部屋でしばらく横になった。
落ち着いてから思ったのは、あんな言い方をしなくてもいいのに、ということだけだった。
それから私は、できるだけその家の前を通らない道を選ぶようになった。回覧を届けるときも、会長と顔を合わせないように郵便受けへ入れて帰った。
半年後に知った、怒鳴り声の理由
冬の集まりで、私は同じ地区の女性と並んで座った。回覧の順番を決める話が終わり、お茶が配られたころ、夏の出来事が話題になった。
私がためらいながら口にした。
「夏に会長さんの家へ行ったとき、すごく怒られたんです。それから、ちょっと顔を合わせづらくて」
女性は驚いたように私を見た。
「えっ、あれを怒られたと思ってたの?」
「『帰れ』って言われたので……。迷惑だったんだと思っていました」
すると女性は首を横に振った。
「あの日、会長は外にいる人がいないか気にして、地区を回ってたのよ。あなたがひとりで暮らしてる時間が長いのも知ってたから。心配してたんだよ」
「心配…してたんですか?」
思わず聞き返した。
その日の帰り際には、別の住民からも声をかけられた。
「夏のあの日でしょう?会長、あとからも『大丈夫だったかな』って気にしてたよ。心配してたんだよ」
数日後、道で会った別の人にも同じようなことを言われた。
「言い方がきつい人だからね。でも、あの日は本当に心配してたんだよ」
3人から同じ言葉を聞いて、私はようやくあの午後の会長の言葉を思い返した。
「帰れ」は、私が邪魔だから追い出したかったわけではなかった。
「こんなときに外を歩くな。家に戻って安全なところにいろ」と言いたかったのだ。
もちろん、怒鳴られて怖かった気持ちまで消えたわけではない。それでも、半年間ずっと抱えていた「嫌われたのかもしれない」という思いは、少しだけほどけた。
次の夏、また揺れを知らせる音が鳴った。
揺れがおさまってしばらくしてから、家の戸締まりを確認していると、門の外から声がした。
「おーい、いるか」
戸を開けると、自治会長が立っていた。
「はい。どうしました?」
会長は少し言いにくそうに帽子のつばを触った。
「怖くなったら、揺れがおさまってからうちに来い。座る場所くらいあるから」
思いがけない言葉に、私は一瞬返事が遅れた。
「…行っても、いいんですか?」
「去年は悪かったな。俺も言い方が悪かった。あれじゃ追い返されたと思うよな」
「正直、少し思ってました」
そう答えると、会長は気まずそうに笑った。
「だろうな。だから今年は先に言っとこうと思って」
それから少し間を置いて、念を押すように続けた。
「ただし、慌てて飛び出すなよ。落ち着いてからでいいから」
「はい。今度はそうします」
会長は「じゃあな」と帽子をかぶり直し、隣の家のほうへ歩いていった。
私はその背中を見送りながら、半年たってようやく、あの日の怒鳴り声の向こうにあった気持ちが分かったような気がした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














