「袋はいらないって言ってましたよ」会計後に怒り出した男性。私の証言のあと、隣の店員さんも口にした事実
画面を見たままの生返事
その日は残業で、ドラッグストアに着いたのは閉店の少し前だった。レジは2台だけ開いていて、私は左側の列に並んだ。
私の前にいたのは、携帯電話を片手に持った高齢の男性だった。
若い店員さんが商品を受け取りながら、男性に声をかけた。
「レジ袋はご利用になりますか?」
「ん?ああ、いらない、いらない」
男性は画面を見たまま、顔も上げなかった。
「かしこまりました」
店員さんはそのまま会計を進め、商品をカウンターの端へ寄せていった。
会計が終わった途端、声が響いた
ところが会計が終わると、男性は商品を見て急に声を上げた。
「あれ?袋は?」
店員さんが戸惑ったように男性を見る。
「先ほど、袋はご不要と伺ったのですが…」
すると男性は眉をひそめた。
「いや、いるって言っただろ。袋くれよ」
「申し訳ありません。すぐにご用意します」
そう言われても、男性の怒りは収まらなかった。
「ちゃんと聞いてなかったのか?袋だよ、袋!」
男性は手のひらでカウンターを強く叩いた。
乾いた音が店内に響き、近くの棚にいたお客さんまで振り返った。若い店員さんはレシートを手にしたまま固まり、明らかに動揺しているように見えた。
私はすぐ後ろでやり取りを聞いていたので、黙っていることができなかった。
少し迷ったものの、できるだけ落ち着いた声で男性に話しかけた。
「すみません。さっき、袋はいらないっておっしゃっていましたよ」
男性が勢いよく振り返った。
「は?なんだ、あんた」
その強い口調にひるみそうになったが、私は続けた。
「ずっと後ろに並んでいたので、聞こえていました」
男性は何か言い返そうとしたようだった。
そのとき、右隣のレジから声がした。
ちょうど会計を終えたベテランらしい店員さんが、こちらを向いていた。
「私も聞いていました。先ほどは『いらない』とおっしゃっていましたよ」
男性は一瞬黙り、若い店員さんと隣の店員さんを交互に見た。
さっきまでの勢いが少し弱まり、小さな声で言った。
「……じゃあ、袋1枚ちょうだい」
若い店員さんが袋を用意し、袋代を会計した。男性は5円を払い、商品を袋に入れると、それ以上何も言わずに店を出ていった。
自動ドアが閉まると、若い店員さんが小さく息を吐いた。
そして私のかごを受け取りながら、少し声を落として言った。
「ありがとうございます。助かりました…」
「いえ。びっくりしましたね」
私がそう返すと、店員さんは少しだけ表情を緩めた。
隣の店員さんも何事もなかったように次のお客さんを迎え、店内にはまたいつもの音楽だけが聞こえるようになった。
家に帰ると、夫が声をかけてきた。
「遅かったね。何かあった?」
「レジでちょっと揉めてる人がいてね」
「大丈夫だった?」
「うん。店員さんに怒ってたから、私も聞いてたことを言ったの。そしたら隣のレジの人も『私も聞いてました』って言ってくれて」
「それは店員さんも助かっただろうね」
夫の言葉に、私も「そうだといいけど」と答えた。
誰かを言い負かすような言葉があったわけではない。ただ、その場で聞いていた人が同じ事実を伝えただけだった。
それでも、張り詰めていた空気がそこでようやく落ち着いたことを、今でも覚えている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














