「あの席、まだ片付かないんですか?」窓ぎわの席をめぐって止まったレジ。だが、店長が示した別の選択肢
止まってしまったレジの前で
30代に入ってすぐのころ、私はカフェのレジに立っていた。土曜の昼前で、注文カウンターには5〜6人が並んでいた。
窓ぎわの二人席には、前のお客様が残したカップや皿がまだ置かれていた。
別のスタッフがトレーを持って客席を片付けて回っていたが、その席まではまだ手が回っていなかった。
注文の順番になった40代くらいの女性は、メニューではなく、その窓ぎわの席を気にしていた。
「あの席、まだ片付かないんですか?」
私は客席を確認してから答えた。
「申し訳ありません。すぐ片付けますので、お待ちください」
女性は窓ぎわを振り返り、少し険しい顔になった。
「さっきから待ってるんですけど。あとどれくらいかかります?」
「すみません。すぐ片付けますので、お待ちください」
「だから、いつになるのか聞いてるんです」
後ろにはまだお客様が並んでいる。けれど私には片付けが終わる時間まで断言できない。
焦った私は、また同じ言葉を口にしてしまった。
「申し訳ありません……すぐ片付けますので、お待ちください」
三度目を言ったところで、自分でも「これでは答えになっていない」と分かった。それでもほかの言葉がすぐに出てこない。
女性も納得できない様子で、列はすっかり止まってしまった。
店長が確認したのは、女性が待っていた理由だった
そのとき、奥から店長が出てきた。私の横に立つと、まず女性に頭を下げた。
「お待たせして申し訳ありません。窓ぎわのお席をご希望なんですね」
「そうです。空いたのを見てから、ずっと待ってるんです」
「そうでしたか。片付けが追いついておらず、申し訳ありません」
店長は店内を見回し、壁ぎわの空いている二人席を示した。
「窓ぎわでなくてもよろしければ、あちらなら今すぐお使いいただけます。窓ぎわのお席を待たれますか?」
女性は二つの席を見比べ、少し間を置いてから答えた。
「……じゃあ、もうあっちでいいです」
「かしこまりました。では、先にご注文をお伺いしますね」
そこで私は女性の注文を聞き、会計を済ませた。
「お待たせして、すみませんでした」
私がレシートを渡すと、女性は「はい」と短く答えた。店長が空いている席を示すと、そのままそちらへ向かっていった。
私はようやく後ろのお客様に向き直った。
「大変お待たせしました。ご注文をお伺いします」
止まっていた列が、少しずつ動き始めた。
その後、窓ぎわの席も片付き、あとから注文を終えた別のお客様がそこに座った。先ほどの女性は壁ぎわの席で飲み物を飲んでいて、もう席を移ろうとはしなかった。
閉店後、店長が私に声をかけた。
「さっきは大変だったね」
「すみません。同じことを三回も言っちゃって……」
すると店長は、「謝らなくていいよ」と首を横に振った。
「ただ、同じ説明をしても話が進まないときは、相手が何を待ってるのか聞いてみるといいよ。それでも困ったら、すぐ呼んで」
「はい。ありがとうございます」
私はずっと、「待ってもらうしかない」と思い込んでいた。でも女性が欲しかったのは、窓ぎわの席を待つのか、別の席に座るのかを選べる説明だったのかもしれない。
あの日以来、答えに詰まったときほど、同じ言葉を繰り返す前に一度相手の希望を聞くようになった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














