「倒すのはこっちの勝手だろ」新幹線で後ろの客に言い放った男性。しかし、前の客が座席を倒すと態度が一変
突然倒れてきた背もたれに、思わず身を引いた
1年ほど前の秋、旅先へ向かう新幹線でのことです。
私は指定席の窓側に座り、車窓から見える田んぼや山を眺めていました。
途中の駅から、50代くらいの男性が乗ってきました。
私のすぐ前の席に座った男性は、何も言わずに背もたれを勢いよく倒したのです。
ほとんど限界まで倒された背もたれが、目の前に迫ってきました。
驚いて体を動かした拍子に、テーブルのお茶に手が触れ、少しこぼしてしまいました。
慌ててハンカチを取り出していると、前の男性が振り返りました。
「さっきから何してるんだよ」
「あ、すみません。倒れた時に焦って、ちょっとお茶がこぼれてしまって…」
「倒すのはこっちの勝手だろ」
「いえ、そういうつもりじゃ…」
男性は私の返事を最後まで聞かず、前を向いてしまいました。
別に座席を倒すなと言いたかったわけではありません。ただ、あまりに急だったので驚いただけです。
お茶を拭き取りながら、もう少し周りを気にしてくれてもいいのに、と思いました。
その後も男性は背もたれを倒したまま。手元が狭く、テーブルを使うのも一苦労でしたが、車内は混んでいます。余計なトラブルになるのも嫌で、何も言わずに過ごしていました。
しばらくすると、車内販売のワゴンが通路を進んできました。
スタッフの女性が男性の座る列の横で止まり、声をかけます。
「お飲み物など、いかがですか?」
すると男性は、面倒くさそうな声で答えました。
「いらないよ。邪魔だから早く行ってくれ」
「失礼いたしました」
スタッフは軽く頭を下げ、ワゴンを押して離れていきました。
注文する気がないのは分かりますが、そんな言い方をしなくてもいいのに。後ろで聞いていた私は、ますます嫌な気持ちになりました。
前の客に注意した男性が、言葉に詰まった理由
次の駅に着くと、40代くらいの男性客が乗ってきて、あの男性の前の席に座りました。
荷物を置いてひと息つくと、その客も背もたれを大きく倒しました。
すると、今度は先ほどの男性が窮屈そうに体を動かし始めたのです。
そして前の座席に手をかけ、少し身を乗り出して言いました。
「おい、そんなに倒すなよ」
その声に、前の客が振り返りました。
「あ、すみません」
前の客はそう答えましたが、通路側に少し体を寄せると、男性の座席も大きく倒れていることに気づいたようでした。
「でも、そちらも結構倒してますよね?」
そのひと言に、男性は一瞬黙りました。
「いや、それは……」
何か言い返そうとしたようでしたが、その先の言葉が出てきません。
つい先ほどまで、私には「倒すのはこっちの勝手だろ」と言っていた男性です。まさか自分が同じ立場になるとは思っていなかったのでしょうか。
通路を挟んだ席では、若い男性が口元を押さえてうつむいていました。その隣の年配の女性も、小さな声でつぶやきました。
「自分も倒してるのにね…」
男性はそれ以上何も言わず、前を向きました。
そして少ししてから、私の目の前にあった背もたれも、ゆっくりと起き上がったのです。
ほんの少しでしたが、手元に余裕が戻りました。
男性が何を思ったのかは分かりません。それでも、さっきまであれほど強気だった人が黙ってしまった姿は、妙に印象に残っています。
私はようやく落ち着いて、窓の外へ目を向けました。そこには、変わらず穏やかな秋の景色が広がっていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














