「すぐ済むから」立ち入り禁止の柵に身を寄せて撮影を続ける観光客。だが、巡回係員の注意にカメラを下ろした瞬間
通路をふさいで撮影を続ける観光客
旅行先で、湯けむりが立ちのぼる温泉の観光スポットを訪れたときのことです。
そこは高温のお湯が湧き出す様子を間近で見学できる施設で、危険な場所には安全のための柵が設けられていました。観光客は柵の手前にある見学通路から景色を眺めるようになっています。
昼の通路は多くの人でにぎわっていました。私もほかの観光客と一緒に、順路に沿ってゆっくりと進んでいました。
ところが突然、前の人たちの足が止まったのです。
見ると、男女のグループが通路の真ん中で写真を撮っていました。撮り終わっても場所を移ろうとせず、仲間同士で画面を見せ合っています。
その間にも後ろには人がたまり、通路はすっかり詰まってしまいました。
すると、私の後ろにいた若い夫婦の夫が、遠慮がちに声をかけました。
「あの、すみません。通ってもいいですか?」
しかし、グループの女性は画面を見たまま答えます。
「今、いいところなんで」
女性はそのまま仲間と笑い合い、撮影を続けました。声をかけた夫も、それ以上は何も言えない様子でした。
私も困っていたのですが、さらに驚くことが起きました。
グループの男性が、今度は通路脇の立ち入り禁止の柵に近づいていったのです。
柵の向こうでは熱いお湯が音を立てて湧き、白い湯けむりが勢いよく噴き出しています。
男性は柵に体を寄せると、カメラを持った腕を向こう側へ伸ばしました。
見ているこちらが怖くなり、私は少し前に出て声をかけました。
「あの、そこ危ないですよ。柵から離れたほうが……」
男性はちらりとこちらを見ましたが、カメラを下ろそうとしません。
「すぐ済むから」
それだけ言うと、仲間の女性まで柵の前に呼び寄せ、二人で身を乗り出して撮影を始めました。
別の仲間は通路脇の展示物に手を触れ、笑っています。
危険な場所での撮影に、私は気が気ではありませんでした。
巡回係員の注意で変わった態度
そのとき、制服姿の巡回係員がやってきました。
白髪まじりの係員はグループに近づくと、柵を指さして声をかけました。
「お客様、すみません。柵から離れていただけますか」
男性はカメラを構えたまま、言い返そうとしました。
「いや、ちょっと写真を撮るだけなんですけど…」
すると係員は、落ち着いた口調ではっきりと伝えました。
「柵の向こうは立ち入り禁止です。熱いお湯が噴き出すこともあって、大変危険なんです。柵に身を乗り出さないでください」
男性はようやくカメラを下ろし、柵から体を離しました。
係員は続けて、展示物に触れていた仲間にも注意します。
「そちらの展示物にも、お手を触れないようお願いします」
その仲間もあわてて手を引っ込めました。
さらに係員は、通路にたまった観光客を見て、グループに声をかけました。
「撮影される際は、通路をあけてください。後ろにもお待ちの方がいらっしゃいますので、順番にお願いします」
グループの人たちは後ろを振り返りました。そこでようやく、何人もの観光客が足止めされていることに気づいたようでした。
男性は何か言いかけましたが、結局それ以上は言い返しませんでした。
ほかの仲間も通路をあけ、グループは列の後ろへと回っていきました。
ようやく止まっていた人の流れが動き出します。
私が前へ進み始めると、後ろにいた若い夫婦の妻が、小さな声でつぶやきました。
「最初から、ちゃんと並んでくれればよかったのにね」
その言葉に、私も思わずうなずきました。
せっかくの美しい景色も、周りの人への配慮や安全を忘れてしまっては台無しです。
私はようやく落ち着いた気持ちで、目の前に広がる湯けむりの景色を眺めることができました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














