「元を取らなきゃ損だろう」旅館の朝食で料理を山盛りに取った男性。妻の忠告を無視した結果、残された大量の料理
空になった料理の大皿
家族で温泉旅館に泊まった朝のことです。朝食会場は大広間で、焼き魚やだし巻き卵、煮物などが並ぶバイキング形式でした。
私は家族に先に席へ座ってもらい、料理台へ向かう列に並びました。
列の前方では、夫婦連れの男性が焼き魚やだし巻き卵を次々と自分の皿にのせています。すでにかなりの量でしたが、男性は手を止めません。
「ねえ、そんなに取って食べきれるの? 後ろの人も待ってるわよ」
隣にいた妻が心配そうに声をかけました。
「せっかく泊まりに来たんだ。元を取らなきゃ損だろう」
男性はそう答えると、また料理を取り始めました。
やがて焼き魚とだし巻き卵の大皿は空っぽに。後ろに並んでいた人たちも、顔を見合わせていました。
男性は山盛りの皿を妻に持たせて席へ運ばせると、自分は新しい皿を手に、再び料理台の前へ戻ってきました。
そして、通りかかった女性スタッフを呼び止めます。
「焼き魚がないぞ。早く持ってきて」
「申し訳ございません。すぐにご用意いたします」
ところが、男性の催促はそれだけでは終わりませんでした。
ほかの料理が少なくなるたびにスタッフを呼び止め、補充に少し時間がかかると、声を荒らげます。
「何回言わせるんだ。こっちは客なんだから」
近くの席では、食事中の客が顔を上げていました。
私も列に並んだまま、何とも言えない気まずさを感じていました。
スタッフの一言で最後尾へ向かった男性
しばらくして、スタッフが焼き魚とだし巻き卵の大皿を抱えて戻ってきました。
男性は待っていたとばかりに、自分の皿を差し出します。
しかし、スタッフは料理を台に置くと、並んでいる客のほうへ向き直りました。
「お待ちのお客様から順にどうぞ」
「おい、こっちが先だろう」
男性が不満そうに声を上げます。
スタッフは落ち着いた口調で答えました。
「申し訳ございません。こちらのお客様方は、ずっとお並びでしたので」
男性は何か言いかけましたが、スタッフが列の先頭の女性を案内すると、それ以上は何も言いませんでした。
しばらくその場に立っていたものの、やがて皿を持ったまま列の最後尾へ歩いていきました。
私も順番が来て料理を取り、家族の待つ席へ戻りました。
その後、私たちが食後のお茶を飲み終えるころのことです。
近くにいたあの夫婦のテーブルを見ると、山盛りだった料理がほとんど手つかずのまま残っていました。
妻は冷めた焼き魚を見下ろし、ため息まじりにつぶやきました。
「だから取りすぎだって言ったのに」
男性は何も言い返さず、残った料理をじっと見つめていました。
あれだけ周囲を急かしていた男性が、妻の一言には黙りこんでしまったのです。
私は家族と朝食会場をあとにしました。大声で言い争うことなく、並んでいた人たちを優先したスタッフの対応が、印象に残る朝でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














