「俺の傘を返せ。人の傘を盗むな」と傘立ての前で私に詰め寄る男。傘を広げた瞬間、言い訳が崩れた
閉館間際、傘立ての前で
閉館間際のホールで、男性が私の傘の真ん中をつかんで離しません
梅雨の夕方、閉館間際の市民ホール。講座を終えた私は、玄関ホールの傘立てから、黒い傘を一本抜きました。友人が誕生日に贈ってくれた、お気に入りの傘です。
受付の人は閉館の片づけで奥の事務室へ入ったきりで、掃除機の音が止みません。
ホールには私と、傘立ての脇に立つ紺のスーツの男性しかいません。
その男性が、私の持つ傘の真ん中をいきなりつかみました。
「俺の傘を返せ。人の傘を盗むな。」
声は天井の高い玄関ホールに響きますが、男性は傘をつかんだ手をゆるめません。
傘立てにはほかに二、三本の傘が残っているだけで、男性の顔は怒りで赤く染まっています。
男性は傘を握ったまま、十年同じで内側まで無地だと言い切りました
『これは私の傘です』と言いかけた私の声を、男性の怒鳴り声が押しつぶしました。
男性が傘の真ん中を握りしめているので、私は傘を広げることもできません。
黒い傘は外側だけでは見分けがつきにくく、その場ですぐに私の物だと証明するのは難しい状況でした。
掃除機の音が続いていて、盗人と叫ばれても、誰も出てきません。握る力が強く、引き抜こうにも傘はびくともしません。足がすくんで、言い返す声も出ませんでした。
「十年、同じ傘だ。買い替えてもない。」
「内側まで無地だ。柄物は買わん。」
男性にそう言い切られて、私の手の中の傘が急に重く感じられました。しかし、その言葉を聞いて、確かめる方法があることに気づいたのです。
男の言い切りを聞いて、私が持ちかけたこと
傘を広げると、内側いっぱいに大きなひまわりが咲いていました
私は息を整えて、男性に傘の内側を確認することを提案しました。外側は普通の黒い傘ですが、友人から贈られたこの傘には、内側に特徴的な柄があります。
男性が内側まで無地だと言い張るなら、広げて確かめるのがいちばん早いと思ったのです。
男性は鼻で笑い、傘から手を離しました。
「無地なら、頭を下げろよ!」
「内側を、ご覧ください。」
私が傘を広げ、男性からも内側が見えるように傾けると、そこには黄色い大きなひまわりが咲いていました。
緑の葉も、びっしりと広がっています。
男性は声を裏返し、広がった傘の内側から目をそらせません
男性はひまわりから目をそらせず、声を裏返しました。
「先週、買い替えたんだ!」
「柄物は買わない人の傘が、ひまわり畑?」
つい先ほど、十年間買い替えていないと言い切ったばかりです。
それなのに、今度は先週買い替えたと言い出しました。
どうしても自分の間違いを認めたくないのか、とっさに言い訳をしたようでした。
男性は眉を寄せ、口の端を引きつらせました。
しばらく黙り込んだあと、ようやく事情を話し始めました。
講座の前に傘立てへ入れた自分の傘が、帰るときには見当たらなかったそうです。
そこで黒い傘を見つけ、自分の物だと思い込んでしまったとのこと。途中で引っ込みがつかなくなり、盗人とまで叫んでしまったことを認めました。
男性の傘がどこへ行ったのかは分かりません。
ただ、私の傘を自分の物だと決めつけ、無理やり取り上げようとしていたことは確かです。
受付の人は、結局出てきません。外はまだ雨で、男性は傘立てに残った傘を見回しましたが、自分の傘は見つからないようでした。
やがて男性は、気まずそうに私のほうへ向き直り、深く頭を下げました。そして、逃げるように雨の中へ出ていきました。
私はようやく傘を差し、ほっと胸をなで下ろしました。お気に入りの傘を取り戻せたことはもちろん、あの場で落ち着いて確かめることができて、本当によかったと思います。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














