「飯はお前の担当だろ」腹を空かせた子供を放ってゲームしていた夫。数日後、娘の問いに夫が黙った
空っぽの皿の前で
残業を終えて帰り着いた時計の針は、9時を回っていた。
玄関を開けると、家の中は妙に暗い。灯りがついているのはリビングだけで、そこからゲームの音が漏れている。
夫はコントローラーを握ったまま、顔も上げずに言った。
「飯はお前の担当だろ、当然だろ」
コンロには鍋ひとつ置かれていなかった。
ダイニングでは5歳の娘が、空っぽの皿の前に座っている。私の足音に気づくと、小さな声を出した。
「ママ、まだごはん食べてない」
「……パパは、何て言ってた?」
「ママが帰ったら食べようって」
2時間、この子はそこで待たされていたらしい。
台所の隅には、朝の食パンの袋が置きっぱなしになっている。それを一枚切って皿に載せる。たったそれだけのことが、この人の頭には浮かばなかったのだ。
「お腹すかせてるの、見てて分からなかった?」
「俺は仕事で疲れてるんだよ」
私も同じ時間、外で働いていた。それでも保育園の準備も病院の予約も、この家では説明のいらない私の仕事になっている。
「疲れてるのは、私も一緒だけど」
「じゃあ言ってくれよ。言われなきゃ分かんないだろ」
娘が、そっと私の袖をつかんだ。私は冷凍のうどんを鍋に落として、その頭を撫でた。
娘の質問に、言葉が続かない
数日後、私が高熱で寝込んだ朝も、夫の第一声は同じ調子だった。
「俺の弁当、今日どうするの?」
大丈夫か、の一言より先にそれが出てくる人なのだと、そこでようやく諦めがついた。
週末、熱の下がった体でまた食卓を整えた。夫は真っ先に席につき、テレビに目をやりながら箸を伸ばす。その正面で、娘が唐揚げに手をつけずに口を開いた。
「パパ、聞いていい?」
「なんだよ」
「パパのお仕事は何?おうちの中で」
夫の手が止まった。
「……そりゃ、会社で働いて」
「ママも会社で働いて、ごはんも作ってるよ」
反論の続きが、どこからも出てこないようだった。夫は箸を置き、テレビのリモコンに手を伸ばして、途中でその手も止めた。娘は真顔で答えを待っている。
「……なんで、そんなこと聞くんだ」
「だってパパ、ずっと座ってるだけだもん」
夫は何も言い返せなかった。私はうどんの器を置いて、静かに言った。
「言われなきゃ分からないなら、この子に聞いて」
その夜、夫は初めて自分の皿を流しまで運んだ。
今では、私が残業の日は夫が娘とごはんを食べている。冷凍うどんを茹でながら、たまにこちらへ電話をかけてくる。
「これ、何分茹でるんだったっけ」
担当だろ、と言っていた人が、今は説明書きを読みながら鍋の前に立っている。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














