「一人だと寂しいでしょう」玄関前に野菜を置き続けた男性。だが、男性の発言を機に彼と同棲を始めた
玄関の前に、また野菜の袋があった
朝、新聞を取りに玄関を開けると、ドアの横に野菜の入った袋が置かれていました。
名前は書かれていません。それでも、誰が置いたのかはすぐに分かりました。
近所で地域の役をしている男性です。
畑で採れた野菜が余ると、ときどき近所へ配っている人でした。
最初に袋をもらったときは、素直にありがたいと思いました。
夕方になると男性が家の前まで来て、笑いながら尋ねました。
「野菜、食べられました?余ったものだから、気にしないでくださいね」
「ありがとうございます。でも、こんなにいただくのは申し訳なくて」
「いいんですよ。一人だと、なかなかちゃんと作らないでしょう」
悪意があるようには見えませんでした。
男性にとっては、近所の一人暮らしを気にかけているだけだったのだと思います。
ただ、その立ち話はだんだん長くなっていきました。
「夜は一人でご飯食べてるの?」
「休みの日も一人?」
「一人だと寂しいでしょう」
笑って受け流しても、しばらくするとまた同じことを聞かれます。
「本当にもう大丈夫ですよ。お気持ちだけで十分ですから」
そう伝えても、「遠慮しなくていいから」と翌週にはまた袋が置かれていました。
この家に越してから二度目の冬を迎えるころには、玄関を開ける前に「今日は何か置かれているかな」と考えてしまうようになっていました。
ずっと先延ばしにしていた話を、二人で決めた
週末、遊びに来ていたパートナーに、そのことを初めてきちんと話しました。
玄関に置かれていた袋を見せながら、ここ二年ほどのことを順番に説明すると、相手は少し驚いた顔をしました。
「そんなに続いてたの?」
「うん。親切なんだとは思う。でも、最近は玄関を開けるのもちょっと気になってて」
「それなら、前に話してたこと、そろそろちゃんと考えようか」
私たちは以前から、いつか一緒に暮らそうという話をしていました。
ただ、お互い仕事もあり、急ぐ理由もなかったため、具体的には決めないままになっていたのです。
それから二人で条件を整理し、休みの日に部屋を探し始めました。
数週間後、引っ越し先が決まりました。
退去の日が近づいたころ、玄関の前にまた袋が置かれていました。
その日の夕方、近所で男性を見かけたので声をかけました。
「いつもありがとうございました。でも、今月でここを引っ越すことになったんです」
「え、そうなの?」
男性は少し驚いたあと、私が持っていた袋を見ました。
「これも、今まで本当にありがとうございました。もう十分いただきましたから」
そう言って返すと、男性は袋を受け取りました。
「そうか。じゃあ、元気でね」
「はい。お世話になりました」
それ以上、何かを聞かれることはありませんでした。
何も置かれていない玄関を見て、ほっとした
引っ越して迎えた最初の朝。
新聞を取りに玄関を開けた私は、しばらく足元を見ていました。
そこには、何もありません。
誰かに何かをされているわけでも、嫌な言葉を言われたわけでもありませんでした。
それでも、毎朝少しだけ身構えていたのだと、そのとき初めて気づきました。
「どうしたの?」
部屋の奥から声をかけられ、私は振り返りました。
「ううん。なんでもない。新聞取ってくるだけ」
そう答えて外へ出ると、久しぶりに玄関を開けることを何も考えずに済んだ気がしました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














