「客が欲しいって言ってるんだ」手描きの紹介カードをはがそうとした男性客。だが、店長が譲らなかった理由
ラーメンよりも紹介カードが気になる男性
文具や化粧品も扱う生活雑貨の店で、期間限定のラーメン売り場を見つけたときのことです。
各地のラーメンが棚に並び、商品ごとに手描きらしい紹介カードが添えられていました。
湯気の立つどんぶりの絵に、味の特徴を説明する言葉。私は買い物かごを持ったまま、どれにしようかと迷っていました。
すぐ隣には、60代くらいの男性客がいました。
男性は商品よりもカードが気になるようで、絵を1枚ずつじっと眺めています。
やがて男性は、近くで棚を整えていた20代くらいの女性店員に声をかけました。
「ねえ、このカード、譲ってもらえないかな」
「すみません。売り場で使っているものなので……。コピーでしたらお渡しできますが」
「いや、コピーじゃなくて、この絵が欲しいんだよ」
「申し訳ありません。期間中は外せないんです」
すると男性は舌打ちし、店員の顔をのぞき込みました。
「客が欲しいって言ってるんだ。たかが紙だろう」
店員が謝っても、男性は納得しません。声を荒らげながら、気に入った3枚のカードに手を伸ばしました。
「客が欲しいんだ、3枚ともくれよ!」
店員は驚いたように息をのみ、棚の前に手を広げました。
私はすぐ隣で、そのやり取りを見ていることしかできませんでした。
店長の説明に、男性が手を下ろした瞬間
男性の声が大きくなったところで、40代くらいの女性店長が駆けつけました。
手には、紹介カードのコピーを1枚持っています。
店長は男性と棚の間に立ち、コピーを見せながら話しかけました。
「お客様、こちらのコピーでしたらお持ち帰りいただけます」
「だから、コピーはいらないって言ってるだろ。店長なら何とかしてくれよ」
「申し訳ありません。カードはまだ売り場で使っています。はがしてしまうと、ほかのお客様が商品の説明を読めなくなってしまいます」
店長は落ち着いた声で続けました。
「ですので、原本はお渡しできません」
男性は何か言いかけましたが、ふと周囲を見回しました。
通路の先では親子連れが足を止め、棚の反対側では年配の女性がこちらを見ています。
男性は伸ばしていた手を下ろしました。そしてコピーを受け取ることもなく、商品にも触れずに出口のほうへ歩いていきました。
親子連れの母親は、子どもを引き寄せて道をあけていました。
店員がほっとしたように手を下ろすと、店長はコピーを棚の脇に置き、店員に小さくうなずきました。
私はようやく商品選びに戻り、男性が欲しがった3枚のカードに紹介されていたラーメンを、1つずつかごに入れました。
さっきまで当たり前のように眺めていたカードが、きちんと売り場に残っていてよかった。そんなことを思いながら、その場を離れました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














