「近くまで来たから」朝早く玄関の前にいたのはアジとサバを持った義母→夫の一言で撃退した話
寝起きの玄関にいたのは
その朝、私はパジャマのままダイニングで寝ぼけ眼にコーヒーを温めていました。
土曜日の、いちばん幸せな時間帯です。
隣の部屋では夫もまだ布団から半分出ていない格好で、スマホをぼんやり眺めている。
予定のない週末って、こんなに穏やかなものなんだな、と思った直後でした。
玄関のチャイムが、ピンポンピンポンと立て続けに鳴り響いたのです。
覗き穴から見えたのは、何かを抱えた義母の姿でした。
一瞬で目を覚まして、私は寝間着の襟を整えながらドアを開けます。
「近くまで来たから」
義母が持っていたのはアジとサバが十数尾、丸ごとのままぎっしり。
釣りが趣味の親戚からもらった分を、私たちにおすそ分けしてくれるつもりらしいのです。
悪気がないのは表情でわかりました。
それでも、土曜の朝に何のアポもなく、こちらの予定や気分を一切確認せずに、生魚をどっさり置いていく。
受け取れば、私の一日はそのまま魚を捌く時間に変わってしまいます。
スーパーの切り身しか扱ったことのない私にとって、頭付きの魚十数尾は完全にお手上げのレベルでした。胸の中で「どうしよう」と「困ったな」が混ざり合って、笑顔がうまく作れません。
夫が玄関先で投げた一言と冷気が抜けた家
背後で夫が起きてきた気配があり、寝癖のついた頭のまま玄関に顔を出してきました。
義母を一瞥して、ふっと小さく息を吐いてから、夫はゆっくりとした声で口を開いたのです。
「アポ無しは迷惑だし自分で捌けないなら持ってくるな」
玄関の空気が、すっと引き締まりました。
義母はえ、と短く声を漏らして、笑顔のまま固まってしまいます。けれど夫は表情を変えずに続けました。
「捌ける人に持っていってあげて」
義母は何度か口を開きかけて、帰りました。
スリッパの足音と、エレベーターのボタンを押す機械音だけがやけに大きく響いて、ドアが閉まると、玄関先には魚の匂いだけが薄く残りました。
夫がさっと窓を開けて空気を入れ替えてくれます。
顔を見合わせて、私たちはどちらからともなく吹き出しました。
アポ無し訪問への不快感も、断れない自分への小さな自己嫌悪も、夫の一言で全部すっと抜けていく感じがしたのです。
淹れ直してもらったコーヒーをふたりですすりながら、結局その日は予定通り、何も予定のない穏やかな土曜日になったのでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














