「何やってんのよ!」子供に怒った隣人。翌日、隣人からの思わぬ提案に背筋が凍ったワケ
壁越しに聞こえた、別人の声
お隣に住むママさんは、挨拶のときからにこやかで感じのいい人だった。
「困ったことがあったら、何でも言ってくださいね」
その柔らかい笑顔に、いい人が隣で良かったと胸をなで下ろした。その印象が一変したのは、ある日の夕方だ。壁の向こうから、聞いたこともない怒鳴り声が突き抜けてきた。
「何やってんのよ!」
子どもを叱っているらしい。あの穏やかな人の声とは、とても結びつかなかった。
「……ねえ、今の聞こえた?」
「うん。ちょっと、強烈だったね」
帰宅した夫も眉をひそめた。誰だって虫の居所が悪い日はある。そう思おうとしたけれど、あの声の鋭さだけが、しばらく耳の奥に残っていた。
笑顔のまま差し出された提案
本当に怖くなったのは、翌日の何気ない立ち話だった。マンション前で会ったその人は、いつもの笑顔でこう尋ねてきた。
「おたくは、お子さんいらっしゃらないんでしたっけ」
「ええ、うちは二人だけで」
私が答えると、相手は思いがけないことを口にした。
「子どもを連れて出かけても良いですよ」
えっ、と声が出そうになった。
聞き間違いかと思ったが、その人はにこにこしたまま、さらにこう付け足した。
「良かったら、子どもを貸しましょうか?」
貸す、という言葉が、頭の中でうまく像を結ばない。自分の子どものことを、まるで物のように人へ差し出す。
「……いえ、お気遣いなく」
私はそう返すだけで、その場を離れるのがやっとだった。
インターホンが鳴るたびに
家に帰って夫に伝えると、彼はしばらく黙ってから口を開いた。
「それ、どういうつもりで言ってるんだろうな」
「分からない。ずっと笑ってるんだよ、あの人」
怒鳴り声と、子どもを貸すという申し出。にこやかな顔の奥にあるものが、私たちにはまるで読めなかった。
「子どもを物みたいに貸すって、よく言えるよな」
「しかも笑いながらだよ。それが一番こわい」
口に出してみると、その不気味さが余計にくっきりしてくる。挨拶のときのあの優しさと、壁越しの怒鳴り声と、軽い口調の申し出が、私の中でどうしても一つの人物像に重ならなかった。
「あの人とは、ほどほどの距離でいよう」
それから私たちは、当たり障りのない挨拶だけを交わすようになった。今でも玄関のインターホンが鳴ると、私の肩は小さく跳ねる。
あの笑顔がドアの向こうに立っているんじゃないか。そう思うだけで、手のひらにじわりと汗がにじむのだ。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














