「ひらがななら、もう全部書けます」懇談会で課題を求めたママ友→ベテラン先生が伝えた気持ちとは
懇談会で挙がった手
学期末の懇談会は、保育室に椅子を並べて行われました。
担任の先生が園での様子をひととおり話し終えると、最後に質問の時間が設けられました。
そのとき、同じクラスの教育熱心なママが、まっすぐ手を挙げました。
「うちの子、ひらがなならもう全部書けるんです」
「そうなんですね。文字に興味があるんですね」
「家では毎日練習させています。園の時間が少し退屈みたいなので、できる子には別の課題を出していただけませんか」
穏やかな口調でしたが、自分の子はほかの子より先に進んでいる、と言いたいことは伝わってきました。
そのママには、送り迎えの際にも何度か声をかけられていました。
「まだ字を教えていないの?」
「早いうちに書けるようにしておくと楽よ」
私はそのたびに、「そうなんですね」と答えていました。
家庭によって考え方は違うと思いながらも、比べられているようで、どこか居心地の悪さを感じていたのです。
担任は、この園に二十年以上勤めているベテランの先生でした。
先生は少し考えてから、穏やかに口を開きました。
園でしかできない経験
「文字が書けることは、すてきな力です。好きなことは、ご家庭でもぜひ伸ばしてあげてください」
ママは満足そうに頷きました。
「ただ、園では一人ひとりに先取り学習の課題を出すことはしていません」
その言葉に、ママの表情が止まりました。
先生は続けます。
「ここでは、順番を待つことや、相手の話を聞くこと、自分たちで遊び方を考えることを大切にしています。どれも、大勢の子どもと過ごすからこそ経験できるものです」
「でも、できることを繰り返すだけでは、本人も退屈すると思うんです」
「文字については、そうかもしれません。ただ、お嬢さんにも、まだ練習していることがありますよ」
先生によると、その子は自分の希望をはっきり伝えられる一方で、遊具の順番を待てずに泣いてしまったり、友達の提案を受け入れられなかったりすることがあるそうです。
もちろん、この年齢では珍しくない姿だと先生は付け加えました。
「文字が早く書けることと、すべての面でほかの子より先に進んでいることは、同じではありません」
ママはしばらく黙っていました。
「家では、できることばかり見ていました」
先ほどまでの自信に満ちた声とは違い、小さな声でした。
「得意なことがあるのは、とてもいいことです。同時に、まだできないことがあるのも当たり前です。園では、その両方を見ながら関わっていきますね」
先生は誰かを責めることなく、そう答えて話を締めくくりました。
帰り際、そのママが私の隣に並びました。
「字が書けるから、何でもできるような気になっていたのかも」
「得意なことは、子どもによって違いますものね」
私がそう答えると、ママは小さく頷きました。
それ以降、送り迎えの際に文字の習得を比べられることはなくなりました。
代わりに、「最近、どんな遊びが好き?」と、子ども自身のことを尋ねてくるようになりました。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














