「その折り方だと時間かかるって」折りかけの花を取られた私。だが、発表会準備で別のママが見ていたこと
お迎えのたびに聞こえてきた声
仕事帰りのお迎えは、いつも閉園ぎりぎりになる。息子のクラスの靴箱の前では、同じクラスのママと顔を合わせることが多かった。もともとは挨拶を交わすくらいの間柄だった。
ある日、息子に靴を履かせていると、そのママが声をかけてきた。
「今日も遅かったんだね。仕事、大変そう」
「うん。今日はちょっとバタバタしてて」
「そっか。うちはこのあと公園かな。最近、毎日『寄って』って言われるんだよね」
「元気だね。うちはもう帰ったらご飯だなあ」
それだけなら何とも思わなかったのだが、何度か話すうちに、返事に困ることも増えていった。
「旦那さんも帰るの遅いの?」
「日によるかな。できるほうが家のことをやってるよ」
「へえ。うちは夫がけっこうやってくれるから、助かってる」
「それは助かるね」
悪気はないのかもしれない。それでも、会うたびに家庭のことを比べられているようで、私は少し疲れていた。
折りかけの花に伸びてきた手
秋の発表会を前に、保護者が集まって会場の飾りを作る日があった。私は入口に並べる紙の花を作り、長机の端で花びらを重ねていた。
すると、あのママが後ろから手元をのぞきこんだ。
「あれ、その折り方でやってるの?」
「うん。前にも作ったことあるから」
「でも、その折り方だと時間かかるよ。もっと簡単にできるよ」
「大丈夫。私はこれでやるね」
そう答えて作業を続けようとすると、また手元をのぞきこまれた。
「いや、だから、その折り方だと時間かかるって。ちょっと貸して」
そう言うと、私が持っていた折りかけの花をひょいと取った。
思わず「あっ」と声が出た。
「ごめん。それ、自分でやるから返してもらっていい?」
「でも、こっちのほうが早いよ?」
「うん。でも私はこの形で作りたいんだ」
私が手を差し出すと、相手は少し戸惑った様子で花を返した。
そのとき、隣で同じ紙の花を作っていた別のママが、私の手元を見て口を開いた。
「でも、その折り方、きれいに花びらが出てるよね」
私は思わず顔を上げた。
「私もそれで作ってみたい。あとで教えてくれる?」
「うん。もちろん」
「よかった。私、こういうの苦手で」
そう言って笑うと、そのママはまた自分の花を折り始めた。
折り方を指摘してきたママも、手元の花を見ながら「そっか」と小さく言った。それ以上何かを言うことはなく、自分の作業へ戻っていった。
少しして休憩になったとき、私は隣のママに声をかけた。
「さっき、ありがとう」
「え?本当にきれいだと思っただけだよ」
そう言って笑われ、私もつられて笑った。
発表会当日、入口には完成した紙の花が並んだ。
息子は花を見るなり、「これ、ママが作ったやつ?」とうれしそうに指をさした。
「うん。みんなで作ったんだよ」
そう答えると、息子は満足そうにうなずいた。
少し離れたところで、あのママとも目が合った。お互いに軽く会釈をして、そのままそれぞれ子どものもとへ向かった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














