「悪いけど、二皿ちょうだい」ホテルの朝食で列を無視した男性。コックの対応に黙った理由
お一人様二皿までの張り紙
家族旅行の二日目の朝、夫と子ども二人と一緒にホテルの朝食会場へ下りた。バイキングの台の前はどこも混んでいて、トレーを持った宿泊客がひっきりなしに行き交っていた。
中でも長い列ができていたのが、ローストビーフのコーナーだった。ガラスの仕切りには「お一人様二皿まで」と書かれた張り紙があり、コックさんが肉を切り分け、一皿ずつ渡している。
夫ともう一人の子どもには席で待ってもらい、私は息子と列に並んだ。
「うわ、けっこう並んでるね」
「人気みたいだね。もう少しだから待とうか」
そんな話をしながら少しずつ前へ進み、あと数人というところまで来た。
そのときだった。60代くらいに見える男性が横から歩いてきて、そのまま列の前へ入った。
そしてコックさんに向かって、軽い調子で声をかけた。
「悪いけど、二皿ちょうだい」
後ろに並んでいた男性が驚いた様子で声をかけた。
「すみません、みんな並んでますよ」
すると男性は列を振り返り、少し面倒そうな顔をした。
「いや、二皿もらうだけだから。すぐ終わるよ」
「みんな同じですよ。後ろに並んでますから」
そう言われると、男性は眉を寄せた。
「ちょっとくらいいいだろ。そんなに時間かからないんだから」
息子が私の袖を引き、小さな声で聞いてきた。
「あの人、並ばなくていいの?」
「ううん。みんな待ってるから、順番だよ」
周囲の人たちも気になったのか、ちらちらと男性のほうを見ていた。
コックさんが示した先
コックさんは手を止めると、男性へ穏やかに声をかけた。
「お客様、申し訳ありません。こちらは並んでいただいている順番にお渡ししています」
男性は少し不満そうに列を見た。
「二皿だけだよ?これだけ並ばないとダメなの?」
コックさんはガラスに貼られた「お一人様二皿まで」の案内を手のひらで示した。
「はい。皆さま同じようにお待ちいただいておりますので、恐れ入りますが最後尾からお願いいたします」
男性は一瞬黙ったものの、まだ納得できない様子だった。
「本当にちょっとだけなんだけどな」
「申し訳ありません。順番にご案内しております」
コックさんの声は変わらなかった。
男性は張り紙と長い列を交互に見たあと、小さく息を吐いた。
「……じゃあ、もういいよ」
そう言って向きを変え、そのまま席のほうへ戻っていった。
大きな言い争いにはならず、止まっていた列も再びゆっくりと進み始めた。
しばらくして、ようやく私たちの番になった。
「お待たせしました。どうぞ」
コックさんが息子に皿を差し出す。
息子はうれしそうに受け取り、私を見上げた。
「ちゃんと待ったらもらえたね」
「そうだね。お父さんたちも待ってるし、戻ろうか」
席へ向かいながら振り返ると、コックさんはもう次の人のローストビーフを切り分けていた。
男性を強く責めることも、声を荒らげることもなく、ただ同じルールを繰り返し伝える。その落ち着いた対応が印象に残った朝だった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














