「カゴ見りゃわかるだろ。袋いるに決まってんだろ!」若い店員を怒鳴った客。だが、列に並んだ子供の疑問で状況が一変
カゴいっぱいの客と、若い店員
その日、私が並んだのはいちばん奥のレジでした。夕方でどの列も詰まっていて、進むのを待つしかありません。
二人前に立っていたのは、五十代くらいの男性です。惣菜や飲み物がぎっしり積まれたカゴを、台にどんと置きました。
レジにいたのは、入って間もなさそうな若い女性店員でした。商品をひとつずつ丁寧に通していきます。
「レジ袋はいかがなさいますか」
その一言で、空気が張り詰めました。
「カゴ見りゃわかるだろ。袋いるに決まってんだろ!」
怒鳴り声でした。両隣の列の人まで、動きを止めてそちらを見ています。
「申し訳ございません。ご確認させていただく決まりになっておりまして」
「そんなもん聞かなくていいんだよ。こっちは急いでるんだ」
店員は謝りながら、何度も頭を下げます。声が震えているのが、離れた場所からでも分かるほどでした。
誰も止めに入りません。私も口を開こうとして、結局は閉じただけです。あの剣幕に向かう勇気が出ませんでした。
母親に向けた、ひとつの確認
静けさを破ったのは、後ろに並んでいた親子でした。小学生くらいの男の子が、母親の袖を引いて聞いたのです。
「ねえ、袋いりますかって、聞かなきゃいけない決まりなんでしょ」
子どもの声というのは、よく通ります。責める調子はまったくなく、教わったことをそのまま確かめただけの言い方でした。
母親も、普通に答えました。
「そうよ。お店の人は、聞かないといけないの」
「じゃあ、あの人ちゃんとしてるじゃん」
その瞬間、列のあちこちで小さくうなずく人がいました。私の前の女性も、隣の列の男性も。声を出した人はいません。
怒鳴っていた男性の肩が、目に見えて下がりました。
「……別に、そんな話は」
言いかけて、そのまま黙り込みます。後ろを振り返ろうとして、途中でやめたのが分かりました。
そこから先は、あっという間でした。男性は財布を出し、金額も確かめずに札を渡します。
袋を抱えると、足早に出口へ消えていきます。誰とも目を合わせないままでした。
男性がいなくなると、列の人が順番に声をかけました。
「大変でしたね」
「気にしなくていいですよ」
店員は目を伏せたまま、小さくお礼を言いました。私の番になったとき、私も伝えました。
「さっきのは、あの人がおかしいですから」
店員は少しだけ顔を上げて、袋を差し出しながら答えました。
「ありがとうございます。次の方にも、ちゃんとお伺いしますね」
その言い方がおかしくて、思わず笑ってしまいました。後ろでは、あの男の子が母親のカゴを一緒に持っています。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














