「あなたのミスでしょ、1割引いて」返金では収まらなかった客。だが、店長の正論に諦めた瞬間
返金では終わらなかった会計
買い物かごを提げてレジに並んだとき、前のほうから同じ言葉が何度も聞こえてきました。
「あなたのミスでしょ、1割引いて」
レジに立っていたのは、まだ勤めて日が浅そうな店員でした。
カウンターの向こうで、レシートを手にした女性が身を乗り出しています。
「2回打ったんだから、負けなさいよ」
横で聞いていて、ようやく事情が分かりました。
同じ商品を二重に読み取ってしまったのだそうです。
店員はそれを認めて、何度も頭を下げていました。
「申し訳ございません。二重に打ってしまった分は、この場で全額お返しいたします」
返金の硬貨は、もうトレーに載っています。
女性は、それに手を伸ばそうとしません。
「迷惑をかけたんだから、それくらいするものでしょう」
隣のレジに応援が入って、列の何人かがそちらへ移りました。
私は動けずに、そのまま同じ場所で待っていました。
店員は一度だけ息を吸って、まっすぐ前を向きました。
「お返しするのは、打ち間違えた分です。それ以上のお値引きは、いたしかねます」
「責任者を呼びなさいよ」
二人の答えがそろった瞬間
呼ばれて出てきた店長は、早足でしたが慌ててはいませんでした。
女性の話を、途中で切らずに最後まで聞いています。
「この子が間違えたの。1割は割引してよ!」
店長はレシートを両手で受け取ると、順に目を通してから顔を上げました。
「お返しするのは、打ち間違えた分です。それ以上のお値引きは、いたしかねます。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」
店員が言ったばかりの言葉と、まったく同じでした。
言い方も、頭を下げる角度も変わりません。
女性の顔から、勢いが抜けていきました。何か言いかけて、口を閉じます。
「……もういいわ」
言葉はそれだけでした。トレーの硬貨をつかんで、袋を抱え上げます。
財布にしまう間も惜しいという足取りで、出口のほうへ歩いていきました。
店長は、その背中に向かって最後にもう一度頭を下げました。追いかけも、言い足しもしません。
私の一つ前にいた年配の男性が、レジ台に商品を並べながらつぶやきました。
「ちゃんと返してもらったのにね」
周りにいた何人かが、小さくうなずきました。声を上げた人は、ひとりもいません。
自分の番が来ると、店員は落ち着いた声で商品を通してくれました。指先が少しだけ震えていましたが、動きは止まりませんでした。
袋を提げて外へ出ると、店内では店長がそのレジの横に立って、袋詰めを手伝っているところでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














