「ここ、座ったらええよ」初めての電車に困惑する子供。だが、席を譲った男性の言葉に心温まった瞬間
母親の服を握ったままの男の子
平日の朝、私は混み合う電車に乗っていました。
車内には立っている人も多く、話し声はほとんど聞こえません。スマートフォンを見ている人や、目を閉じている人が並ぶ、いつもの通勤時間帯でした。
途中の駅で、幼稚園くらいの男の子とお母さんが乗ってきました。
男の子は車内に入った途端、少し不安そうな顔をして、お母さんの服をぎゅっと握りました。
電車が動き出すと、揺れに合わせて小さな体がふらつきます。つり革にはもちろん手が届きません。
「大丈夫だよ。もう少しだからね」
お母さんが声をかけますが、男の子は服から手を離そうとしませんでした。
その様子を見ていたのが、すぐ近くの座席に座っていたスーツ姿の男性です。
「ここ、座ったらええよ」
男性は膝に置いていた鞄を持ち上げると、立ち上がりました。
「ここ、座ったらええよ」
お母さんは驚いたように男性を見ました。
「いえ、大丈夫です。すぐ降りますので」
「立っとるの大変やろ。僕も次で降りるから」
そう言って男性が少し離れると、お母さんは何度もお礼を言いながら、男の子を座らせました。
座席に腰を下ろした男の子は、ようやくお母さんの服から手を離しました。
「ありがとうございます。この子、電車に乗るのが初めてで、ちょっと緊張してるみたいで」
お母さんがそう話すと、男性は笑いました。
「そうなんや。初めての電車か」
小さな声で返した「ありがとう」
すると、それまで黙っていた男の子が男性を見上げました。
「ありがとう」
さっきまでお母さんにしがみついていたとは思えないほど、はっきりした声でした。
男性も少し驚いたようでしたが、すぐに笑って返します。
「どういたしまして。今日はどこ行くん?」
男の子は少し考えてから、
「プール」
と答えました。
「ええなあ。楽しんできてな」
「うん」
短いやり取りでしたが、近くにいた何人かの表情が少しやわらいだように見えました。
次の駅に着くと、男性は男の子に軽く手を振って降りていきました。
男の子も座席から小さく手を振り返します。
何か大きな出来事があったわけではありません。ただ、朝の慌ただしい電車の中で交わされた数分のやり取りが、妙に印象に残りました。
席を譲る男性と、緊張しながらもきちんと「ありがとう」と伝えた男の子。その光景を見て、私も少しだけ穏やかな気持ちで電車を降りたのでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














