「挨拶する時間なくなりそう」結婚式で酔っ払って歌ってしまった親戚。だが、司会の毅然とした対応で空気が一変
始まった独演会
その日は、親しい親戚の結婚式でした。披露宴もなごやかに進み、いよいよ祝いの余興が始まろうという頃合いのことです。
新郎側の親戚だという40代ほどの男性が、赤らんだ顔で席を立ちました。そして司会者を押しのけるようにマイクを握ると、朗々と歌い上げ始めたのです。
頼まれてもいない独演会に、会場は戸惑うばかりでした。
司会者が困ったように様子をうかがっても、男性はいっこうに気づきません。それでも本人だけは気持ちよさそうに、たっぷりと一曲を歌い切ってしまいます。
押していく進行
一曲で終わるかと思いきや、男性はマイクを離しません。
気をよくしたのか、そのまま続けて二曲目に入ろうとしています。
本来なら、このあとには新婦のお父様の挨拶が予定されていました。けれど歌が長引くほどに、その大切な出番が、どんどん後ろへと押しやられていきます。
お父様は末席で、じっと自分の順番を待っておられました。娘の晴れ姿に贈る言葉を、きっと何度も胸の中で練ってこられたはずです。それが宙に浮いてしまいそうで、見ているこちらまではらはらしました。
「挨拶する時間なくなりそう」
このままでは、お父様の言葉が丸ごと省かれてしまう。隣の席の親族が、そう小声でこぼしたのが聞こえました。新婦も気が気でない様子で、そっと父親のほうへ視線を送っています。
取り戻した出番
ところが司会者は、少しも慌てませんでした。
二曲目のさびが終わるのを見計らい、笑顔で歩み寄って自然に拍手を促します。
「たっぷりとお聞かせいただき、ありがとうございました」
やわらかな物言いながら、その一言には有無を言わせぬ落ち着きがありました。男性も満足げにうなずいて、ようやく自分の席へ戻っていきます。
「お待たせいたしました。新婦のお父様より、ご挨拶を頂戴いたします」
飛んでしまいかけた挨拶が、こうしてきちんと呼び戻されました。
マイクを受け取ったお父様は、深く一礼してから、娘への想いを静かに語り始めます。会場は水を打ったように静まり、その言葉に耳を傾けました。
強引な人を無理やり押さえつけるのではなく、笑顔のまま流れを引き戻してしまう。危うく消えかけた大切な時間を守り抜いた司会者に、私はそっと拍手を送ったのでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














