「爺さんの遺品は長男の俺のものだ」三回忌で百万の遺産を口にした叔父。だが、親戚一同の視線が黙らせた瞬間
法要のあとの席で
祖父の三回忌を終えた会食には、親戚が十五人ほど顔をそろえていました。
久しぶりに集まった一同が、祖父の思い出を語り合う、和やかな席になるはずでした。
祖父は生前、古い時計や骨董を宝物のように大切にしていた人でした。その品を前に、祖父の人となりを懐かしむ、静かなひとときになると、誰もが思っていたのです。
ところが、母の弟にあたる叔父は、酒が進むにつれて目つきが変わっていったのです。
声の張りも、次第に周りを圧するようになっていきました。
やがて祖父の遺品整理の話を、はばかりもなく大声で持ち出したのです。
「爺さんの遺品は長男の俺のものだ。まとめて売れば、百万は下らないだろう」
金額まで口にして、叔父は満足げに笑いました。まだ祖父を見送ったばかりの席で、遺品を値踏みする声だけが、座敷にやけに大きく響いたのです。
楽しげだった話し声が、いっせいに途切れました。誰かの手が、料理に伸ばしかけた箸を静かに戻します。線香の匂いの残る部屋に、気まずい間だけが落ちていきました。
一同が向けた視線
笑っているのは、叔父ひとりでした。
盃を手にした親戚たちは、誰も相槌を打ちません。伯母は眉をひそめ、従兄は目を伏せ、末席の若い親戚まで、気まずそうに視線を落としています。
座敷いっぱいに、冷たい沈黙が広がっていきました。
その張り詰めた空気のなか、母が静かに口を開いたのです。
「今日は、お父さんを送る日でしょう」
たったそれだけを、母は穏やかに言いました。
「そのお金の話を、今ここでするものじゃないわ」
叔父はなおも言い返そうとしました。
「固いこと言うな。いずれ決める話じゃないか」
「兄さん、それはさすがに」
末席の従兄が、低い声でそうたしなめました。
「お義父さんを、まず送ってあげましょうよ」
伯母も、静かにそう続けます。けれど、叔父のその声に応える者は、ほかにひとりもいませんでした。それどころか、叔父へ向けられた親戚たちの視線が、いっそう冷たさを増していきます。味方はどこにもいない。そう悟った瞬間、叔父の笑みがこわばりました。
赤かった顔から血の気が引き、得意げだった口元がわなないています。四方から注がれる無言の視線に耐えかねたのか、叔父はとうとう目を伏せ、盃を置きました。
「……わかった、わかったよ」
そう絞り出すのが、精一杯のようでした。あれほど大きかった声は、もう聞こえません。気まずい静けさのなか、母だけが静かに祖父の遺影へ向き直り、そっと手を合わせていました。その背に、叔父はもう何ひとつ言えませんでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














