「10万円の話、そろそろ二人で整理しようか」弟に10万円を貸したまま5年。だが、弟がようやく口にした本音とは
口約束のまま、5年が過ぎていた
実の弟に10万円を渡したのは、5年前のことです。
ある日、弟が私の家まで来て、玄関先で言いました。
「悪いんだけど、車検が重なってさ。今月だけ、ちょっと足りないんだ」
次のボーナスが出たら返すと言うので、私は10万円を渡しました。
兄弟なのだから、わざわざ紙に残すほどでもない。そのときは、そう思っていました。
ところが、ボーナスの時期を過ぎても弟から連絡はありませんでした。
半年に一度ほど親戚の集まりで顔を合わせましたが、弟からお金の話が出ることもありません。
こちらから言えば、その場の空気を悪くしそうです。
親に相談すれば、余計な心配をかける気もしました。
「次に会ったら言おう」と思いながら、その次も言えない。そんなことを繰り返しているうちに、5年がたっていました。
その年の親戚の集まりで、帰り際に伯母が私たちを見て笑いました。
「あなたたち、昔からそこは変わらないねえ」
昔から仲のいい兄弟だ、という意味でした。
もちろん伯母は10万円のことなど知りません。それでも、その言葉を聞いたとき、私はこのまま何も言わずにいるほうが、かえって兄弟の間に何かを残すような気がしました。
皆が帰ったあと、私は弟に声をかけました。
「ちょっとだけ、話せるか」
庭先に出て、私は当時のことを書いていた手帳を開きました。そこには日付と10万円という金額、次のボーナスで返すという話を簡単に残していました。
弟は手帳を見ると、少し気まずそうに目を伏せました。
「兄さん、それ…まだ書いてたんだ」
「責めたいわけじゃないんだ。ただ、このままにしておくのも嫌だからさ」
私は少し間を置いてから言いました。
「10万円の話、そろそろ二人で整理しようか」
言えなかったのは、弟だけではなかった
弟はしばらく黙ったあと、小さな声で言いました。
「返さなきゃとは、ずっと思ってたんだよ」
「うん」
「でも最初の約束を過ぎたら、どんどん言いづらくなってさ。今さら何て言えばいいんだって……そのままにしてた。ごめん」
もちろん、それで5年間何も言わなくてよかったとは思いません。
ただ、弟が忘れていたわけではないと分かり、少しだけ力が抜けました。
「じゃあ、今から決めよう。無理のない額でいいから」
その場で、毎月いくらずつ返すかを二人で相談しました。弟の生活に無理が出ない額にして、毎月決まった日に振り込むことにしました。
今度は曖昧にしないよう、別の紙に金額と日付を書き、二人で確認しました。弟はその紙を自分のスマートフォンで撮りました。
「こうしておけば、俺も忘れない」
弟がそう言ったので、私はうなずきました。
「疑ってるわけじゃないよ。今度は、お互い言いづらくならないようにしよう」
考えてみれば、私も5年間、一度もきちんと返してほしいと言っていませんでした。
弟が黙っていたことに腹を立てながら、自分も兄弟の関係を壊したくなくて、話を先延ばしにしていたのです。
決めた日から、兄弟の間が少し楽になった
翌月から、弟は決めた日に振り込むようになりました。
最初の月には、「今日振り込んだから、確認して」と連絡もありました。
親には最後まで何も話していません。二人の間で始まったことなので、二人で終わらせればいいと思っています。
次の親戚の集まりでも、弟とはいつも通り話しました。
返済の話をわざわざ持ち出す必要もありませんでした。もう、いつ言い出されるのかと互いに探る必要がなくなったからです。
帰り際、弟が私の横に来て言いました。
「兄さん、全部返し終わったらさ、今度飯でも行こうよ。そのときは俺が出すから」
「じゃあ、それは楽しみにしてるよ」
私がそう返すと、弟は少し照れたように笑いました。
5年間気まずかったのは、10万円そのものより、何も決めないまま話を避け続けていたことだったのかもしれません。
一枚の覚え書きで何もかも解決したわけではありません。それでも、きちんと話して返し方を決めたことで、兄弟の間に残っていた重さは少しずつ薄れていきました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














