「じゃあ本部に聞いてみるから」スーパーで値引きされてないことに不満を感じた客。だが、店長が変えなかった対応
「前はこの時間に安くなってたよね?」
若い頃、私はスーパーの精肉売り場でアルバイトをしていました。
夕方になると、売れ残りそうな商品に値引きシールを貼るのも仕事のひとつです。ただし、好きな時間に貼っていいわけではありません。店長や副店長の指示が出てから始める決まりになっていました。
ある日の15時すぎ、ショーケースを見ていたお客さんに呼び止められました。
「ねえ、これまだ結構残ってるよね。そろそろ安くならないの?」
私は時計を見ました。値引きを始めるには、まだ早い時間です。
「すみません。値引きはまだあとなんです」
そう答えると、お客さんは少し不満そうな顔をしました。
「でも前に来たとき、このくらいの時間にシール貼ってた気がするんだけど」
曜日や売れ行きによって作業を始める時間が多少前後することはありました。お客さんとしては、今日もそろそろだと思ったのでしょう。
それでも、その日はまだ店長から指示が出ていません。
「今日はまだ値引きを始めていないので、私の判断では貼れないんです。申し訳ありません」
何度か説明しましたが、お客さんは納得できない様子でした。
「じゃあ本部に聞いてみるから」
そう言うと、本当にその場で電話をかけ始めました。
私は急に不安になりました。決まりどおりに答えたつもりでも、言い方が悪かったのだろうか。アルバイトの自分が余計なことを言ってしまったのではないか。
そこで奥にいた店長に事情を伝えました。
「さっきのお客さんが、本部に電話していて……私、まずかったでしょうか」
店長は私の話を聞くと、特に驚いた様子もなく言いました。
「大丈夫。ちょっと話してくるよ」
店長も、同じことを伝えただけだった
店長は売り場へ出ると、お客さんの話を最後まで聞いていました。
「前はこの時間に安くなってたのよ。今日はだめなの?」
お客さんにそう聞かれても、店長は声を荒らげません。
「そうでしたか。日によって少し時間が前後することはあるんですが、今日はまだ値引きを始めていないんです。申し訳ありません」
さらに少し間を置いてから、
「夕方になれば順番に値引きしますので、その時間でしたら通常どおりお買い求めいただけます」
と続けました。
私がさっき説明した内容と、ほとんど同じでした。
お客さんはしばらくショーケースを見ていましたが、「そうなのね」とだけ言って、その日は何も買わずに帰っていきました。
店長が戻ってきたので、私は恐る恐る聞きました。
「私の対応、大丈夫でしたか?」
すると店長は、あっさり答えました。
「うん。決まりどおり説明できてたから、それで大丈夫だよ」
怒られるかもしれないと身構えていた私は、その言葉でようやく肩の力が抜けました。
夕方になれば、いつもどおりシールを貼る
そのあとも売り場はいつもと変わりませんでした。
夕方になり、店長から声がかかると、私は値引きシールを持ってショーケースの前へ向かいました。
一枚ずつ貼っていると、待っていたお客さんたちが商品を手に取っていきます。
昼間のやり取りを思い出しながら、私は少し不思議な気持ちになりました。
本部に電話されたと聞いた瞬間は、大変なことになったと思っていました。でも店長がしたのは、お客さんを責めることでも、慌てて値引きを始めることでもありません。
ただ事情を聞いて、店の決まりをもう一度説明しただけでした。
その姿を見てから、困ったときほど慌てず、自分で決められないことは決められないと伝えていいのだと思えるようになりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














