「ねえ、酒ないの?」二度と来ないと言い切った客。だが、常連の一言で笑顔が溢れたワケ
「もう来ないからな」が、いつもの締めくくりだった
モーニングも出しているレストランで働いていたころの話です。
夜はお酒を出していましたが、日中は扱っていません。それでも、昼の時間帯に来るたび、お酒を頼もうとするお客さんがいました。
その人が来る曜日や時間はだいたい決まっていました。席に着くとメニューをほとんど見ないまま、こちらを呼びます。
「ねえ、酒ないの?一杯くらい出してくれてもいいでしょう」
「申し訳ありません。お酒は夜の時間帯だけなんです」
そう伝えると、決まって不満そうな顔をされました。
「またそれ?前にも言ったけどさ、昼だからって出せない理由が分からないんだよね」
私たちも何度も説明していたので、それ以上言えることはありません。
すると今度は、少し投げやりな声になります。
「じゃあ、もういいよ。紅茶でも持ってきて」
紅茶を運べば運んだで、カップを見ながら、
「これでお金取るんだ。まあ、いいけどさ」
と一言。
何を言っても、最後には何かひとつ文句が返ってくる。そんなお客さんでした。
そして会計になると、ほぼ毎回こう言うのです。
「もう来ないからな。ほんと、次はないよ」
最初のころは私も「本当に怒らせてしまったのかな」と気にしていました。
けれど、一週間ほどするとまた同じ時間に現れます。月に三回ほどは顔を合わせていたので、いつしかスタッフの間でも「あの方、今日そろそろ来るかもね」と分かるようになっていました。
「また来週」と言われて、言葉が止まった
ある日も、いつものやりとりがありました。
会計へ向かうために席を立ったその人は、やはり少し強い口調で言いました。
「ほんとにもう来ないよ。毎回同じこと言わせないでよ」
私は「申し訳ありません」と答えながら、心の中ではまた身構えていました。
すると、近くの窓際に座っていた常連のお客さんが、思わずといった様子で笑いました。
その常連さんも同じ曜日によく来る人で、二人は何度も店内で顔を合わせていました。
「でも、また来週も来るんでしょう?いつもの席、空いてるといいですね」
店内が一瞬、静かになりました。
その人は振り返って、
「いや、だから……俺はもう……」
と言いかけましたが、そこで言葉が止まりました。
常連さんは責めるような顔ではなく、ただ可笑しそうに笑っています。
すると、その人も困ったように口元をゆるめました。
「……まあ、気が向いたらね」
そう言ってレジへ向かっていきました。
隣にいた同僚が、小さな声で言いました。
「あの人、あんな顔するんですね」
私も少しだけ笑ってしまいました。
そして次の週。
やはり、その人はいつもの時間に店へ来ました。
席に着くと、少し気まずそうにメニューを開きます。
私が注文を聞きに行くと、こちらを見ずに言いました。
「今日は……紅茶でいいよ」
少し間を置いてから、付け足します。
「熱いやつね」
「かしこまりました」
それからも、その人が急に別人のように穏やかになったわけではありません。時々、不満そうなことを口にする日はありました。
ただ、「二度と来ない」という言葉だけは、あの日から聞かなくなりました。
こちらも以前ほど身構えずに接客できるようになり、その人が来ても「今日は何を言われるだろう」と緊張することは少なくなりました。
何度も繰り返していた言葉を、思いがけず誰かにそのまま受け止められたことが、少しだけ気恥ずかしかったのかもしれません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














