「いつもあなたのレジに並びますよね」私のレジに並ぶ無口なお客さん。帰り際に教えてくれた理由とは
必要なことしか話さないお客さん
接客の仕事をしていたころ、週に何度か顔を合わせる年配のお客さんがいました。
いつも一人で売り場を回り、店員に声をかけるのは何か分からないことがあるときだけです。
「これ、どこにある?」
棚まで案内すると、「ああ、ありがとう」と短く返して、そのまま商品を見始めます。会計のときも必要以上に話すことはありませんでした。
私は最初、あまり店員と話すのが好きではない人なのだろうと思っていました。そのため、こちらから無理に世間話をすることもありませんでした。
ただ、商品について質問されたときだけは、できるだけ急がずに答えるようにしていました。
「こっちとこっち、どっちが長く使える?」
「使い方にもよりますけど、長く使うならこちらのほうが合うと思います」
そう答えると、お客さんは二つの商品を見比べます。
「じゃあ、こっちにするかな」
迷っている様子なら、無理に決めてもらおうとはせず、「ゆっくり見てくださいね」と伝えて、私はいったんレジの仕事に戻りました。
そんなやり取りを何度か繰り返すうちに、顔を見ると軽く会釈をしてくれるようになりました。
帰り際に初めて聞いた理由
ある日、いつものように会計を終え、袋を渡したときのことです。
お客さんは受け取った袋を持ちながら、少しだけ立ち止まりました。
「ここはさ、分からないこと聞いても急かされないからな」
突然だったので、私は一瞬返事ができませんでした。
すると、その人は少し照れたような顔をして続けました。
「だから来るんだよ」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
私がそう返すと、お客さんは「じゃあ、また」とだけ言って店を出ていきました。
その後、近くにいた同僚が笑いながら教えてくれました。
「あの人、あなたがレジにいると、そっちに並ぶこと多いですよね」
言われてみれば、何度も顔を合わせていたのには、そういう理由もあったのかもしれません。
私は特別な接客をしているつもりはありませんでした。ただ、質問されたら最後まで聞いて、分からないまま話を終わらせないようにしていただけです。
それでも、その人にとっては「急かされないこと」が店を選ぶ理由の一つになっていたのでしょう。
それからは忙しいときほど、相手が何を聞きたいのかを最後まで聞いてから答えることを意識するようになりました。
接客の仕事を離れた今でも、あの帰り際の「だから来るんだよ」という短い言葉を、ときどき思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














