「ちょっと聞いてよ」で40分間も世間話する客。だが、私の一言で見せた意外な反応
顔を合わせると、長い世間話が始まった
アパレルショップで働いていた頃、毎週のように顔を見せるお客さんがいました。
来店しても、すぐに洋服を見るわけではありません。店内をひと回りして、手の空いていそうな店員を見つけると近づいてきます。
私も何度か声をかけられました。
「あ、いたいた。ちょっと聞いてよ」
そう言って始まるのは、家であったことや近所の話など、買い物とは関係のない世間話です。
一つの話が終わると、「それでね」と次の話が始まり、気づけば30分、長いときには40分近く経っていました。
悪意があるわけではありません。私たちと話すことを楽しみにしているようにも見えました。
ただ、まだ新人だった私は、どこで話を切り上げればいいのか分かりませんでした。店が比較的落ち着いている時間に来ることが多かったこともあり、「仕事に戻ります」と言うタイミングを逃してしまったのです。
その間、畳みかけの服や品出しは止まります。お客さんが帰ってから、慌てて残った作業を片づけることもありました。
「聞けません」ではなく、手を動かすことにした
ある日、そのお客さんがこちらへ歩いてくるのが見えました。
私はちょうど、レジ横で畳み直す服を何枚も抱えていました。
「今日ね、ちょっと聞いてほしいことがあって」
いつものように話が始まりそうになったところで、私は思い切って言いました。
「たたみながらでよければ、レジの前で聞かせてください」
お客さんは一瞬、きょとんとしました。
「ああ、いいよ。忙しいもんね」
意外にも、嫌な顔はされませんでした。
私はレジ横へ戻り、服を畳みながら話を聞きました。話の切れ目では顔を上げて相槌を打ち、ほかのお客さんが近くを通れば「いらっしゃいませ」と声をかけます。
それまでのように、ずっと向かい合って話を聞く形ではなくなりました。
その日は40分にはなりませんでした。それでもすぐに帰ったわけではなく、ひと通り話し終えると、「じゃあ、またね」と店内を見ながら帰っていきました。
近くにいた先輩が、あとで小さな声で言いました。
「それなら、お互い気まずくならなくていいね」
少しずつ、店での過ごし方が変わった
それから私は、そのお客さんが来ても必要以上に身構えなくなりました。
話しかけられれば聞きます。ただし、畳み物や商品の整理まで止めることはしません。
お客さんも次第にそれに慣れたようで、話の途中で私が商品を整えていても気にしなくなりました。
以前ほど長く話し続けることも少なくなり、ときどき店内の服を見るようにもなりました。
しばらく経ったある日、その人が一枚の服を手にして私のところへ来ました。
「これ、私でも変じゃないかな」
初めて、世間話ではなく商品について聞かれました。
私はサイズや合わせ方を一緒に確認しました。しばらく鏡の前で迷ったあと、お客さんはその服をレジへ持ってきました。
「じゃあ、今日はこれ買っていく」
「ありがとうございます」
袋を渡すと、お客さんはいつものように「またね」と手を振って帰っていきました。
無理に追い返す必要はありませんでした。ただ、話を聞くことと、仕事の手を止めることは別だったのだと思います。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














