「お金を投げるの?!」小銭を投げるように渡された私。だが、後ろで見ていた客がかけてくれた言葉
何も言えず、小銭を拾った
たこ焼き屋でアルバイトをしていた頃の話です。私はレジを担当していて、注文を聞いて焼き担当の人に伝え、出来上がったものを渡して会計をしていました。
仕事にも慣れ、忙しい時間でも手順どおりに動けるようになっていた頃です。
その日、注文に来たお客さんは、どこか苛立っているように見えました。返事も短く、注文を聞いている間も少し険しい表情をしています。
そして会計のとき、その人は小銭をこちらへ投げるようにして出しました。
硬貨がトレーに当たり、何枚かが台の上に散らばります。
(お金を投げるの?!)
「……ありがとうございます」
私はそれ以上、何も言えませんでした。
散らばった小銭を拾って数え、お釣りを渡します。いつものように「ありがとうございました」と言ったときには、その人はもう背を向けていました。
嫌だったな、と思いました。
けれど後ろにはまだお客さんが並んでいます。立ち止まっているわけにもいかず、私は気持ちを切り替えるように息を吐き、次の人へ「お待たせしました」と声をかけました。
すると、そのお客さんは注文を言う前に、私の顔を見ました。
「さっきの、見てたよ。気にしなくていいからね」
思いがけない言葉に、私は一瞬返事ができませんでした。
その人は少し困ったように笑って、続けました。
「びっくりしたよね。あなたは悪くないから」
「……ありがとうございます」
やっと、それだけ返しました。
自分では平気なつもりだったのに、そう言ってもらった途端、少しだけ肩の力が抜けました。
奥にいた焼き担当の人も、こちらの様子に気づいたようです。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
今度は、ちゃんと答えることができました。
今でも覚えているのは、そのあとの一言
声をかけてくれたお客さんは、それ以上その話をしませんでした。
いつもどおり注文をして、たこ焼きが焼き上がるのを待ち、商品を受け取ると「ありがとう」と言って帰っていきました。
何か特別なことをしたという雰囲気もありません。ただ、目の前で起きたことを見ていて、ひと言声をかけてくれただけでした。
そのあとも私はレジに立ち続けました。次々に注文を聞き、お金を受け取り、お釣りを渡します。
仕事そのものは何も変わっていません。それでも、さっきまでより少しだけ落ち着いて接客できるようになっていました。
あれからずいぶん時間が経ちました。
小銭を投げるように渡した人の顔は、もうほとんど覚えていません。けれど、そのあとに「気にしなくていいからね」と言ってくれた人の表情は、ときどき思い出します。
嫌なことがあったとき、誰かの何気ないひと言に救われることがあります。
今でも店員さんが困っている場面を見かけると、あの日のことを思い出します。そして私も、必要なときにさりげなく声をかけられる人でいたいと思っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














