「ぶつかって壊れたら、責任取れるんですか」優先席に荷物を置く乗客。子どもを抱いた女性が声をかけた時の一言に唖然
二度目のお願いで、やっと顔が上がった
去年の秋、平日の夜の電車でのことです。車内は混み合っていて、つり革はほとんどふさがり、ドアの近くまで人が立っていました。
私は立ったまま、車両の端にある三人がけの優先席を見ていました。
そこに座っていたのは一人だけでした。ただ、その人の両隣には大きな荷物が一つずつ置かれていて、三席とも使われている状態でした。
しばらくすると、子どもを抱いた人がその席の前まで来ました。
「すみません。こちら、座らせてもらえますか」
声をかけましたが、座っている人は顔を上げませんでした。
聞こえなかったのかと思ったのでしょう。少し間を置いて、もう一度同じように声をかけました。
二度目でようやく顔が上がりました。
「このカバンには精密機器が入っているんです」
荷物の一つを示しながら、その人はそう答えました。
「ぶつかって壊れたら、責任取れるんですか」
確かに、壊したくない荷物だったのだと思います。ただ、混雑した優先席で、荷物のために席を使い続けていることには、私は違和感がありました。
子どもを抱いた人が何も言えずにいると、さらに言葉が続きました。
「早く来たもん勝ちでしょう」
私は何か言おうとして、結局言えませんでした。周りにいた人たちも黙ったままでした。
小さく謝って離れていった人
少しして、子どもを抱いた人が小さな声で言いました。
「すみませんでした」
軽く会釈をして、その場から離れていきます。次の駅に着くと、そのまま別の車両へ移っていきました。
その姿を見ながら、どうしてお願いした側が謝らなければならなかったのだろう、と引っかかりました。
先に座っていた人は、そのあとも荷物を両隣に置いたままでした。そして三駅ほど過ぎたところで、荷物を持って普通に降りていきました。
私も電車を降りると、近くにいた乗客と目が合いました。改札へ向かう途中、その人がぽつりと言いました。
「言えばよかったですね」
「ええ。私もそう思います」
その場では、それ以上の言葉は出ませんでした。
帰り道、何と言えばよかったのだろうと何度も考えました。強く注意できたとは思いません。ただ、「荷物を一つだけでも動かせませんか」と声を添えることくらいはできたかもしれません。
今も引っかかっているのは、誰がその席に座れたかということだけではありません。困っている人が二度お願いしているのを見ながら、私は何も言えなかったことです。
それ以来、電車の中で誰かが同じお願いを繰り返している声が聞こえると、以前より少し周りを見るようになりました。あの夜に言えなかったことを、今でも時々思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














