「お母さん、どこにいるの?」プールで一緒に遊び始めた3人の子どもたち。40分後、母親が初めて私に気づいた瞬間
40分、水辺で見ていた大人は私だけだった
友人の家族と屋内のプールへ行った日、私は友人の小学一年生の娘さんと、浅いほうのコースの端にいた。
友人は下の子を連れて休憩所にいて、水の中では私が娘さんを見ていた。
スライダーの落ち口の近くでビート板を使って遊んでいると、同じくらいの年の男の子が2人やってきた。
「ねえ、それ一緒にやっていい?」
娘さんが「いいよ」と答えると、もう1人も笑いながら近づいてきた。
「じゃあ、あっちの壁まで競争しようよ」
子どもたちは、あっという間に3人で遊び始めた。
私は順番を決めたり、「走ると危ないよ」と声をかけたり、水を飲みに行く子が戻ってくるのを待ったりしていた。3人とも楽しそうだったので、一緒に遊ぶこと自体は嫌ではなかった。
ただ、しばらくして気になった。
男の子2人の保護者らしい人が、近くに見当たらない。
「お母さん、どこにいるの?」
そう聞くと、1人がプールの向こうを指さした。
「あっち。ここで遊んでていいって言われた」
「そっか。じゃあ、あんまり遠くには行かないでね」
「うん!」
元気よく返事はしたものの、その「あっち」がどこなのか、私には結局分からなかった。
それからも私は3人から目を離さないようにしていた。誰かが少し深いほうへ行きそうになるたびに、「そっちは行かないよ」と呼び戻す。
気づけば40分ほど経っていた。その間、少なくとも子どもたちのそばで見守っていた大人は私だけだった。
そろそろ上がろうかと思っていたころ、通路のほうから女性が歩いてきた。
「もう帰るよー!」
男の子たちが「はーい」と返事をする。
ああ、お母さんはちゃんといたんだ。
ほっとした一方で、女性は子どもたちを呼ぶと、そのまま出口のほうへ歩き始めた。私のほうを見る様子はなかった。
「この人にも言わなきゃ」
私も娘さんと一緒にプールを出て、出口へ向かった。
少し先を歩いていた男の子たちが振り返る。
「じゃあねー!」
「一緒に遊んでくれてありがとう!」
娘さんも濡れた手を大きく振った。
「またねー!」
子どもたちの明るい声だけが響いた。
母親は少し先を歩いたままだった。
別にお礼がほしくて見ていたわけではない。それでも40分近く一緒にいたので、少しだけ取り残されたような気持ちになった。
ところが、自動ドアの手前で男の子の1人が急に足を止めた。
「ママ、待って!」
「なに?どうしたの?」
男の子は母親の手を引いて、こちらを振り返った。
「この人にも言わなきゃ。ずっと一緒にいてくれたんだよ」
「え?」
母親はそこで初めて私のほうを見た。
「さっきからずっと、遊ぶの見ててくれたんだよ」
母親は驚いたように私と男の子を見比べた。
「あ…そうだったんですか。すみません、私、全然知らなくて」
私は慌てて首を振った。
「いえ、みんなで一緒に遊んでいただけなので」
「でも、見ていてくださったんですよね。ありがとうございました」
荷物を持ち直しながら、母親は頭を下げた。
「こちらこそ、一緒に遊んでもらって助かりました」
そう答えると、それまで胸に残っていたものが少しだけほどけた。
「ねえ、また来たら遊べるかな?」
男の子が娘さんに聞いた。
「遊べるよ。いたらね!」
「じゃあ探す!」
子どもたちはもう、さっきまでのことなど気にしていない様子で笑っていた。
母親は自動ドアの前でもう一度振り返り、私に小さく会釈をしてから外へ出ていった。
母親も、私がずっとそばにいたことには気づいていなかったのだろう。もし最初から事情が分かっていたら、私の受け止め方も少し違っていたのかもしれない。
それでもあの日、いちばん先に「ありがとう」を口にしたのは、大人ではなく子どもたちだった。そのことだけは、今でもよく覚えている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














