「そこにあるやん。それ出してくれたらええやろ」売り切れの寿司を求めた男性客。その皿が向かった先
売り切れ表示の直後、同じネタが流れてきた
仕事帰りに一人で回転寿司に寄った、平日の夜のことです。店内は混んでいました。
白身を2皿ほど食べたころ、少し離れた席から大きな声が聞こえてきました。
声の主は、スーツ姿の中年男性でした。タッチパネルで注文しようとしたネタが、ちょうど品切れになっていたようです。
「え、売り切れ?でも、そこにあるやん」
男性が指さした先を見ると、ちょうど同じネタの皿がレーンを流れてきていました。
男性は近くにいた若い店員さんを呼び止めます。
「ほら、あれ。あれでええから出してよ」
店員さんは皿を確認してから、申し訳なさそうに頭を下げました。
「すみません。あちらは、先にご注文いただいたお客様のお品なんです」
「でも、まだ誰も取ってへんやろ?」
「はい。ただ、すでにご注文いただいている商品なので…」
説明を聞いても、男性は納得できない様子でした。
「そこにあるやん。それ出してくれたらええやろ」
声が一段と大きくなり、近くのお客さんたちも箸を止めました。
「あちらが最後の一皿なんです」
すると、カウンターの奥にいた板前さんがこちらへ声をかけました。
「お客様、申し訳ありません。あちらが本日の最後の一皿なんです」
男性は流れていく皿を見ながら眉をひそめます。
「最後なら、なおさらあれでええやん」
板前さんは落ち着いた声で続けました。
「あちらは、先にご注文されたお客様の分としてお出ししたものなんです」
「まだ取られてへんやろ。一皿くらい何とかならんの?」
「すみません。すでにご注文をいただいていますので、別のお客様へお渡しすることはできません」
そのやり取りをしている間にも、皿はゆっくり先へ進んでいきました。
そして間もなく、少し先に座っていた親子の前へ届きました。
父親が流れてきた皿を確認して取り上げ、隣に座る女の子の前へ置きます。
「ほら、来たよ」
「やった!」
女の子はうれしそうに手を合わせました。
男性はその様子を見て、しばらく何も言いませんでした。
目の前にあったからといって、誰でも取れる一皿ではなかったことが、ようやく伝わったように見えました。
やがて男性はタッチパネルへ目を戻します。
「……じゃあ、もうええわ。こっちにする」
「ありがとうございます。そちらでしたらご用意できます」
板前さんがそう答えると、男性もそれ以上は何も言いませんでした。
張りつめていた店内の空気も少しずつ戻り、周囲のお客さんたちは再び食事を始めました。
目の前を流れているものにも、すでに待っている人がいることがあります。あの一皿が親子の前へ届くまでの短い出来事が、今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














