「恥ずかしいから、早く返してきて」ホテル朝食のパンを袋に詰めた母親。だが、娘に言われて引き返した瞬間
混み合う朝食会場で、ふくらんでいく袋
1年ほど前、旅行先のホテルで朝食を取っていたときのことです。
朝食会場は混み合っていて、出入口の外には順番を待つ人の列ができていました。
私は出入口に近い料理台の列に並び、自分の番を待っていました。
そのとき、客席にいた中年の女性客の行動が目に留まりました。
女性客は大きなポリ袋を席に広げ、個包装のジャムやバター、スティックシュガーをいくつも手に取っては、袋の中へ入れていたのです。
それだけではありません。
今度はパンの台に向かうと、トングでクロワッサンやロールパンをつかみ、皿ではなく袋に次々と入れ始めました。
近くの席にいた家族連れの母親も、驚いたように女性客を見ています。
「ねえ、あれ、持って帰る気かな…」
私も思わず手を止めてしまいました。すると、若い女性スタッフが女性客のそばへやってきました。
「お客様、申し訳ございません。お料理の持ち出しはご遠慮いただいております」
女性客は袋の口を握りしめ、スタッフをにらみました。
「払ってるのはこっちなのよ。いつ食べたっていいでしょ!」
突然の大きな声に、周囲の客も振り返ります。
スタッフは少し困った表情を浮かべながらも、落ち着いた声で説明しました。
「申し訳ありません。衛生上の理由で、お部屋へのお持ち帰りはお断りしているんです」
「もう、うるさいわね!いいわよ、行くから!」
女性客は袋を抱え直すと、スタッフの横を通り抜け、出入口へ向かっていきました。
入口の掲示を指さした、娘のひと言
女性客が出入口まで来たときです。
ちょうど遅れて朝食に来た娘らしい若い女性が、母親と顔を合わせました。
若い女性は母親の抱えている袋を見るなり、ぎょっとした表情になりました。
「お母さん、何それ。パン、全部持っていくつもり?」
「部屋で食べるのよ。お金は払ってるんだから」
すると娘は眉をひそめ、出入口の横にある掲示を指さしました。
「えっ、だめだよ。ここに持ち帰っちゃだめって書いてあるよ。私、昨日の夜に読んだもの」
「え…」
母親は何か言い返そうと口を開きましたが、そのまま黙ってしまいました。
出入口の外には朝食を待つ客が並んでいて、何人もの視線が母親のふくらんだ袋に向けられています。
娘は母親に顔を近づけ、困ったように言いました。
「もう、恥ずかしいから、早く返してきて」
母親は顔を真っ赤にすると、何も言わずに向きを変えました。
そして、出入口で待つ客たちの前を引き返し、料理の列の横を足早に戻ってきたのです。
私の前を通ったときも、袋を抱えたまま、うつむいていました。
女性客はパンの台のそばにいたスタッフに袋を差し出しました。
「確かにお預かりいたします」
スタッフは袋を受け取り、丁寧に頭を下げました。
出入口では、娘が会場のほうに向かって小さく頭を下げていました。
ようやく自分の番が来た私は、温かいコーヒーをカップに注ぎました。
さっきまで「お金を払っているんだから」と言い張っていた女性客が、娘のひと言で黙って引き返した姿が、しばらく頭から離れませんでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














