「触らないでください!」リュックで座席をふさぎ、男性に2度強く言い返した女性。だが、年配の女性が声をかけた結果
リュックでふさがれた通路側の席
去年の冬の夕方、僕は普通電車のつり革につかまっていました。
車内はそこそこ混んでいて、2人掛けの席はほぼ埋まり、ドア付近にも立っている人がいました。
僕のすぐ前の2人掛けの席では、20代くらいの女性が窓側に座っていました。通路側には大きなリュック。女性は携帯電話の画面を見続けています。
途中の駅で乗ってきた50代くらいの男性が、その席の前で足を止めました。片手に鞄を下げ、空いているはずの通路側の席を見ています。
「すみません。ここ、座ってもいいですか」
「荷物置いてるんで」
女性は顔を上げずに答えました。男性は一瞬黙りましたが、もう一度声をかけました。
「そこ、少し空けてもらえませんか」
「荷物置いてるんで」
今度も同じ答えでした。男性は困ったようにリュックを見つめ、少し間を置いて言いました。
「でも、そこは座るところですよね」
男性がリュックのほうへ半歩寄ると、女性は急に顔を上げました。
「触らないでください!」
男性は驚いて身を引きました。ところが女性は、さらに強い声でもう一度。
「触らないでください!」
男性はリュックには触れていませんでした。近くにいた僕にも聞こえる声で、周囲の空気が張りつめました。
男性はそれ以上話しかけられない様子で、その場のつり革につかまりました。
僕も何か言うべきか迷いましたが、すぐには言葉が出ませんでした。
隣に立っていた年配女性の静かなお願い
そのとき、僕の隣に立っていた年配の女性が、席のほうへ一歩進みました。
「すみません。そのリュック、膝の上に置いてもらえませんか」
穏やかな声でした。若い女性は顔を向けましたが、返事はありません。
年配の女性は、もう一度だけ言いました。
「荷物をよけてもらえたら、こちらの方が座れますから」
少しのあいだ、誰も口を開きませんでした。僕も、女性がどう答えるのか気になって、目を離せずにいました。
やがて若い女性が小さく息をつき、リュックを持ち上げて膝の上に置きました。空いた通路側の席に、男性がそっと腰を下ろします。
「ありがとう。助かりました」
男性がそう言うと、年配の女性は「いいえ」と首を振りました。
若い女性は膝のリュックの上で、また携帯電話を見始めました。
僕は年配の女性に小さく頭を下げました。目が合うと、女性はかすかに笑って窓の外へ視線を戻しました。
大きな声が響いたあとだっただけに、静かなお願いで席が空いたことが、妙に印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














