「トートバッグ代、9千円払って」ふたが外れたと、スマホを向けて窓口に居座る客。私が見せた1杯で状況が一変
駅前のジューススタンドの窓口
10分前に買ったお客さんが、ふたが外れて汚れたと戻りました
「ふたが外れて、バッグが汚れた。」
駅前の小さなジューススタンドの窓口に、女性のお客さんが戻ってきました。10分前に、黒糖ミルクを買っていった方です。肩にかけた白い布のトートバッグの表面に、茶色いしみがにじんでいます。
「トートバッグ代、9千円払って。」
布のしみは洗っても落ちないから、買い直す分をそのまま払ってほしいと言うのです。
ふたは外れて歩道に転がったと、お客さんは言いました
お客さんは、しみを手のひらで示して身を乗り出しました。
「ここで買った黒糖ミルクよ。」
「ふたが外れて、歩道に転がったの。」
ふたが外れた弾みで、中身がバッグにかかったそうです。ふたもカップも、駅のごみ箱に捨ててきたと言います。
スマホを向けられ、言い返せば動画に撮られてしまいます
お客さんが、スマホをこちらへ向けました。
「今、動画を撮ってるから。」
「謝るより、お金でしょ。」
6月の夕方、窓口は私ひとり。手渡したあとのことは、私も見ていません。うしろに並ぶ女性はあとから来た人で、ふたもカップもごみ箱の中。
だれも、その場で確かめようがありません。言い返せば、その声ごと『店員の暴言』としてネットに流されるかもしれません。
スマホのレンズの前で、私の指先は冷たくなっていきました。
「払うまで、ここを動かない」
払うまで動かないと言われ、私は次の方の分を作りに向かいました
「払うまで、ここを動かない。」
お客さんが、カウンターに片手をつきました。うしろの女性の黒糖ミルクは、作りかけのままです。
「お次の方の分を、先にお作りします。」
私は、うしろの台へ向き直りました。
この店のカップは、ふたでなく膜で口をふさいでいます
機械で封をしたばかりのカップを、私は逆さにして、お客さんの前で止めました。一滴も落ちません。
「うちのカップに、ふたはありません。」
この店には、取り外し式のふたを置いていません。カップの口は、機械で透明なフィルムを縁に熱圧着してふさぎます。密封が不十分なら中身が漏れる可能性はありますが、硬いふたのように外れて歩道を転がるものではありません。
黒糖ミルクは、封をしたら逆さにして混ぜてからお渡しします。
10分前のお客さんのカップも、窓口で逆さにしてから渡しました。
目の前のお客さんは、スマホの画面を見つめたままでした。
もちろん、今見せたカップだけで、先ほど渡した商品に不具合がなかったと証明できるわけではありません。それでも、少なくともお客さんの説明と、店で使っている容器の構造が食い違っていることは伝わるはずです。
口で言い返せば、動画に撮られるだけ。だから、いつもの手順で見せたのです。
逆さにしたカップからは、一滴もこぼれません。
お客さんは、バッグのしみとカップを交互に見つめていました。
膜は転がらず、お客さんはカウンターから手を離しました
「転がったのは、膜のほうだわ!」
「膜は、転がりません。」
薄いフィルムが剥がれる可能性はあっても、硬いふたのように歩道を転がるという説明には無理があります。しかも、お客さんは最初、ふたが外れたとはっきり言っていたのです。
うしろの女性が、お客さんの手元に目を落としました。
お客さんは言い返そうとしましたが、口を開いては閉じるばかり。私はそれ以上責めず、どこで何が起きたのか、もう一度確認しようとしました。
しばらく沈黙したあと、お客さんは小さな声で漏らしました。
「……駅のベンチの、缶コーヒーよ」
どうやら、駅のベンチで缶コーヒーをこぼし、バッグを汚していたようです。こちらへ向けていたスマホは、いつの間にか下を向いていました。撮影が続いていたかどうかは分かりませんが、先ほどまでの勢いはありません。
動かないと言っていたお客さんは、カウンターから手を離しました。そして、1円も受け取らず、しみの残るバッグを提げたまま、足早に立ち去りました。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














