「向かいの壁にだけ、当てなきゃいい」寝室を打つボールの音。だが、こちらも注意書きを貼った日から態度が一変
向かいにだけ気を配る親
隣家の子どもたちが、庭でドッジボールをして遊ぶ。
声が弾んで、いかにも楽しそうだ。
そこまではいい。問題は、はずれたボールが決まってうちの寝室の壁を打つことだった。
ドン、ドン、と重い音が壁の内側まで伝わってくる。
乳児を寝かしつけた直後にそれをやられると、せっかく寝た我が子がびくりと起きて泣き出す。
一日のうちで、その音を何度聞かされたか分からない。
それでも、向かいの御宅の塀を見て、私はなんとなく我慢していた。
そこには「監視カメラ設置中・フェンスにボールを当てないこと」と大きく張り紙がしてある。
カメラがあるお宅には、さすがに強く言えないのだろうと。
ところが親御さんの動きを見ていると、そういう遠慮ではないと分かってきた。
子どもが向かいへボールを飛ばしそうになると、すかさずそちら側に回り込んで止める。ある日、庭から親御さんが子どもへこう言うのが、はっきり聞こえてきた。
「向かいの壁にだけ、当てなきゃいい」
張り紙のない我が家は、はなから眼中にないのだ。
同じ壁を打たれても、片方は必死に守られ、片方は放置される。その線引きが、日ごとに悔しくなっていった。
うちも紙を貼った日
ならばと、私も同じ手を借りることにした。「録画中・この壁にボールを当てないでください」と書いた紙を、寝室側のフェンスに一枚貼っただけだ。
効果はてきめんで、その日からボールの音はぴたりとやんだ。
けれど、しばらくして親御さんが不服そうにやってきた。「たかがボールでしょう」と言いたげな顔で。
私は、ここ数日ためていた録音を再生した。
壁を打つ鈍い音が、途切れることなく続く。日付と時刻の入ったその記録を前に、相手の表情がみるみる変わっていった。
「向かいさんにはあんなに気をつけていたのに、うちには一度も声をかけてくれませんでしたよね」
そう静かに伝えると、親御さんはしばらく黙り込んだ。
壁に残ったいくつもの丸い跡に目を落とし、ようやく小さな声を絞り出した。
「…ごめんなさい」
後日、庭にはボール止めのネットが張られ、子どもたちの遊ぶ向きも変わった。
張り紙のあるなしで人を区別していた親が、初めてこちらへ頭を下げた。守られる家と、我慢させられる家の差が、ようやく消えた瞬間だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














