「どんまーい、下手だなぁ」子供の失敗を笑う夫。だが、イヤイヤ期に入った結果
おもちゃの車と夫の笑い声
休日の昼下がり、リビングの床におもちゃの車が転がっていた。
もうすぐ2歳になる息子が、それを走らせようとしている。押す力が強すぎて、車はすぐ横倒しになる。息子は何度も起こしては、また倒す。それでもやめない。
ソファから夫の声が降ってきた。
「どんまーい、下手だなぁ」
笑い声つきだった。息子は父親を見上げて、つられて笑っている。まだ言葉の意味を知らないからだ。
「今の、なんで言うの」
「かわいいからだよ。ほんとに下手なんだもん」
「自分が同じこと言われたら、どう思う」
「俺は大人だし。あいつ分かってないって」
分かっていないから、言っていいわけではない。追いかけっこで転んだときも、スプーンを落としたときも、夫は同じ調子で笑った。頑張っている最中の子どもを、なぜわざわざ笑うのか。
伸ばした手が宙に浮いた夜
イヤイヤ期が始まったのは、それから間もなくだった。変わったのは、夫に対してだけだった。
脱衣所で服を脱ぎながら、夫が息子を呼んだ。以前なら、裸で走ってくるのが恒例だった子だ。
その夜、息子は来なかった。夫が迎えに行き、抱き上げようと手を伸ばした瞬間、泣き声が家じゅうに響いた。
「うわ、なんだ、どうした」
息子は体をのけぞらせて、全身で夫を押しのけた。触られただけだ。それだけで、必死に逃げようとする。
「おい、ママ、なんかあった?」
「べつに、何も」
私は台所から答えた。夫は伸ばした手を宙に浮かせたまま、動けずにいる。
「……疲れてんだよ、こいつ。今日いっぱい遊んだから」
言い訳は、その日だけでは足りなかった。翌日も、翌々日も、息子は夫が近づくだけで私の後ろへ隠れた。抱っこも風呂も、全部拒否。夫が差し出したおもちゃの車を、息子は叩き落とした。
「パパ、あっち」
覚えたての言葉で、はっきり追い払われた。夫の笑顔が、そこで完全に消えた。
(やっと通じた)
洗い物の手を止めて、私はその背中を眺めていた。あなたが毎日やっていたことを、この子はちゃんと感じ取っていた。
その夜、夫は寝室で長いこと天井を見ていた。
「……あれ、俺のせいか」
「かわいいから言ってたんだよね」
返事はなかった。
次の日から、夫は息子が転んでも笑わなくなった。黙って隣に座り、倒れた車を起こして、そっと押してみせる。息子はまだ、その手を取らない。
面白がって見下していた相手に、今度は自分が見向きもされない。夫はいま、玄関で靴を履くたびに息子の顔色をうかがっている。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














