「1回のごめんが、なぜ言えないの」犬の通院を放置して黙り続けた夫。だが、妻が問い詰めた結果
「わかったって」と言った夫
その朝、私は急な用事で、どうしても家を出なければなりませんでした。
「今日、犬の病院あるからね!」
玄関からそう叫んで、私は飛び出しました。予約票は冷蔵庫に貼ってあります。定期の診察で、薬を受け取るだけ。二十分もかからない用事でした。
「わかったって」
ソファの夫は、スマホから顔を上げずに答えました。
飼っている犬は、八歳になります。散歩も通院も、ごはんの用意も、ほとんど私がやっていました。私のほうが時間に余裕があるので、そこに文句はありません。
夜に帰ると、犬はいつも通り玄関でくるくる回っていました。
病院のことを聞こうとしましたが、夫は電話中で、そのままになりました。
次の日も、その次の日も、夫からは何も言ってきません。予約票は冷蔵庫に貼られたままでした。
薬の袋が減ったままなのに気づいて、私はようやく口を開きました。
「病院、連れて行ってくれたよね?」
夫はテレビを見たまま、短く答えました。
「行ってない」
部屋が静まりました。犬が足元に来て、私の足に顎をのせました。
初めて言葉に詰まった夫の顔
行けなかったこと自体は、責める気になれませんでした。もとはといえば、私の用事で頼んだのですから。
ただ、夫は自分に非があると思わない限り、絶対に謝らない人でした。三日間黙っていたのも、悪いと思っていないからです。
私はテレビの前に立ちました。
「行けなかったのは、責めてないよ」
「じゃあ、なんの話だ」
「行かなかったって、黙ってた三日間の話」
夫の目が、初めてこちらを向きました。
「1回のごめんが、なぜ言えないの」
夫は何か言いかけて、口を閉じました。いつもの「忙しかったんだよ」も「お前だって同じだろ」も、出てきません。
視線が、私の足元の犬に落ちました。
「……ごめん」
言い訳のない「ごめん」を聞いたのは、結婚して初めてのことでした。
「うん、それでいいの」
私は許すとも言わず、気にしないでとも言いませんでした。それだけ返して、台所に戻りました。
翌朝、夫は自分で予約票をはがし、病院に電話をかけていました。
「すみません、今日、連れて行っていいですか」
診察から帰ってきた夫は、薬の袋を私に差し出しました。聞いてもいないのに、先生の説明まで復唱していました。
それから夫は、頼まれたことができなかった日は、先に言うようになりました。
「今日の散歩、無理そうだ。夜に俺が行く」
うちの犬は最近、夫の帰る足音でも、しっぽを振るようになっています。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














