「うるさい、黙れ」駐車場の前に座り込んだ酔っ払った男性。半年後、男性の息子が再び頭を下げた理由
出かけるはずだった日曜が、そこで終わった
その日曜の朝、娘は自分でリュックを背負って玄関に立っていた。
久しぶりの遠出で、前の晩からおやつを詰めて楽しみにしていた。
私たちも荷物を車に積み、そろそろ出ようとしていた。ところが車のドアに手をかけたところで、道のほうから低い声が聞こえた。
見ると、うちの駐車場の出口をふさぐように、斜め前の家の男性が座り込んでいた。
七十代で、普段は口数の少ない人だった。
近づくと酒のにおいがして、いつもの様子とは明らかに違っていた。
「おはようございます。ここ、危ないですよ」
男性は道路のほうを向いたまま動かなかった。
私は少し距離を取り、もう一度声をかけた。
「これから車を出しますので、どいてもらえませんか」
「うるさい」
「危ないので、お願いします」
「黙れ」
突然大きくなった声に、娘は車のそばで両手を耳に当てた。夫はすぐに娘を抱き上げ、そのまま家の中へ戻った。
私もそれ以上は言わなかった。今の男性と話を続けても状況がよくなるとは思えなかったし、何より娘をこれ以上怖がらせたくなかった。
玄関に戻ると、娘はリュックを背負ったままソファに座っていた。
手には、前の晩に選んだおやつの袋を握ったままだった。
少し時間を置けば出かけられたのかもしれない。
それでも娘はすっかり元気をなくし、私たちにも出かける気持ちは残っていなかった。その日はそのまま家で過ごした。
半年後、斜め前の家に止まっていたトラック
その日の夕方、男性の息子さん夫婦が家まで謝りに来た。
少しして、事情を聞いたらしい自治会の班長さんも様子を見に来た。
私は朝に起きたことを、そのまま説明した。
「うるさい、黙れ、と駐車場の前に座り込んだまま怒鳴られたんです」
「お子さんも一緒だったんですか」
「はい。怖がって耳をふさいでいました」
班長さんは黙ってうなずいた。
息子さんは申し訳なさそうに頭を下げ、「父は病院に連れていきます」とだけ言った。
奥さんも娘に向かって腰をかがめ、「怖い思いをさせてごめんね」と謝ってくれた。
その後、男性の姿を見かけることはほとんどなくなった。
近所には、あの朝の声を聞いていた人もいたようだった。犬の散歩で近くを通った人や、外に出ていた人もいたらしい。集積所などで顔を合わせると、「この前は大丈夫だった?」と聞かれることが何度かあった。
私はそのたびに、「もう大丈夫です」とだけ答えた。
斜め前の家は雨戸が閉まっている日が増え、以前より人の出入りも少なくなった。こちらから事情を聞くことはしなかった。
それから半年ほどたった、ある日曜の朝だった。
家の前にトラックが止まり、段ボールが次々と運び出されていた。玄関を見ると、表札も外されている。
しばらくすると、息子さんがこちらへ来た。
「あのときは、本当にすみませんでした」
そう言って頭を下げたあと、「引っ越すことになりました」とだけ教えてくれた。
私は詳しい理由までは聞かなかった。あの日のことだけで決まった話ではないのだろうと思ったし、こちらから尋ねることでもないと思った。
トラックが出ていったあと、娘が自転車で家の前を通った。
半年前は声を聞いただけで耳をふさいでいた場所だった。でもその日は前を向いたまま、いつもの速さでペダルをこいでいった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














