「片付けた、必要ないだろ」入院中に勝手に私物を捨てた夫。だが、自分の物で同じ目に遭った結果
病室に届かなかった荷物
手術のあと、2週間の入院になった。
夫に電話で頼んだのは、着替えと読みかけの本と、老眼鏡だけだった。
届いたのは、コンビニの袋に入ったタオルが1枚。どこにあるか分からない、というのが夫の言い分だった。結局、必要な物は妹に持ってきてもらった。
退院して家に帰り、自分の部屋の扉を開けた。
本棚の一段が空いていた。窓際の籐のかごも、母の形見の裁縫箱も消えている。三十年ぶん取っておいた手紙の束も、どこにもない。
手紙は、亡くなった母が結婚前の私に送ってくれたものだった。裁縫箱の鋏は、母が最後まで使っていたものだ。どちらも、もう二度と手に入らない。
「私の物、どうしたの」
夫は新聞から目を離さずに答えた。
「片付けた、必要ないだろ」
片付けた、という言い方に一瞬だけ騙されかけた。ゴミの日は、私が入院した翌週だ。
「聞いてくれれば、よかったのに」
「聞いたら捨てちゃダメって言うだろ」
施設に入った義母の荷物は、押し入れひとつ分そのまま残っている。あれは一つも触らないのに。私の物のありかだけは、この人は正確に知っていた。
押し入れの雑誌が消えた日
翌週の土曜、夫が釣りに出かけた。
私は夫の部屋の押し入れを開けた。
20年ぶん溜め込んだ雑誌の山と、棚に並んだ模型の箱。触るなと言われ続けてきた物ばかりだ。ためらいはなかった。
雑誌は紐で縛って古紙回収へ。模型は箱ごとリサイクル店に持ち込んだ。空いた押し入れの底には、埃の四角い跡だけが残った。
夕方、玄関の戸が開く音がした。
「なあ、押し入れの雑誌、知らないか」
「処分したわ。必要ないと思ったから」
夫は釣り竿を持ったまま、廊下に立ち尽くした。
「……なんで、聞かないんだ」
「聞いたら、ダメって言うでしょう」
そこで、夫の言葉が完全に止まった。口を開けたまま、何秒も声が出ない。自分が二週間前に言い放った理屈が、一字も変わらずに戻ってきたのだ。青ざめた顔で、空になった押し入れをずっと見ていた。
「あれ、20年かけて集めたんだぞ」
「私の裁縫箱は、母の形見だったけど」
夫は釣り竿を床に置いて、その場に膝をついた。返す言葉は、ひとつも出てこなかった。
あれから半年、夫は私の部屋の扉を開けない。掃除機をかけるときも、廊下から「入っていいか」と声をかけてくる。
先日、私の机に置いた紙袋を見て、夫が手を伸ばしかけた。そして、途中で引っ込めた。
「……いや、なんでもない」
その手が二度と私の物に触れることは、たぶんもうない。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














