「俺、稼ぎ少ないから。ごめんな」口では謝るのに一切動かない夫。だが、私がその場で突きつけた正論とは
口だけの申し訳なさ
夫は建設業、私は看護師。同じ共働きでも、手取りは私の方が月に10万円ほど多い。
そのことを、夫は事あるごとに口にした。
「俺、稼ぎ少ないから。ごめんな」
そう言われるたび、私は首を横に振ってきた。稼ぎの多い少ないで、家の中の役割を決めた覚えはない。
ただ、その言葉が本気なら、態度のどこかに出るはずだった。
現実は逆だった。
掃除も洗濯も、買い出しも夕飯も、全部私。夫は玄関で靴を脱ぎ、ソファに沈み、テレビをつける。あとは動かない。
私も管理職になってから、朝は夫より少し遅く出て、帰りは夫よりずっと遅くなった。それでも、遅い時間に台所へ立つのは私の役目のままだった。
疲れた頭で、味噌汁の火加減を見る。そこへ、ソファから声が飛んでくる。
「飯の味が違う、作り直してくれ」
味が違う。それだけ言えば、あとは黙って座っていれば直ると思っている。
昨日と同じ味噌だと伝えても、返事は決まっていた。
「いや、違うって。もっとこう、ちゃんとした味」
ちゃんとした味の定義を、この人は一度も説明したことがない。
その場で突きつけた正論
その夜、私は火を止めて、菜箸を置いた。
「ちゃんとした味って、何ですか」
返事はなかった。
「毎晩それを言われて、毎晩私が味を直してます。でも正解を知ってるのはあなただけですよね」
夫が、リモコンを持ったまま固まった。
「今日から夕飯はご自分でどうぞ。ご本人が作れば、味の文句は出ないので」
「待てよ、俺は仕事で疲れて」
そこまで言って、夫は口をつぐんだ。私が九時過ぎに帰宅して、今この台所に立っていることに、ようやく気づいたらしい。目線が、ゆっくり床へ落ちていく。
「稼ぎが少なくてごめんな、って言いますよね。私、そこは一度も責めていません」
夫は、うなずくことしかできなかった。
翌日から、夫は自分の夕飯を自分で用意しはじめた。レトルトと惣菜の日々が続き、三日目には米を焦がしていた。
「これ、毎日やってたのか」
ええ、二十年ほど。声には出さず、心の中でだけ答えた。
四日目、夫は台所の入口に立って頭を下げた。
「もう味のことは言わない。……悪かった」
「そうしてもらえると助かります」
それ以上は言わなかったし、笑って許しもしなかった。
あの日から、食卓の景色が変わった。夫は自分の茶碗を自分で下げ、風呂の残り湯で洗濯機を回すようになった。
「味噌汁、今日のうまいな」
ソファに沈んでいた背中が、今は先に立ち上がる。ごめんなの一言より、その方がずっと伝わるのだと、この人はやっと分かったらしい。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














