「ご飯くらい頼むよ、俺は疲れてる」そう妻に言い続けた夫。だが、妻の代わりに1日回してみて初めて気づいた現実
口だけの分担
平日の夜、俺が家に帰ると、家の中はいつも片付いていた。
息子は風呂上がりで、食卓には皿が並んでいる。妻は台所に立ったまま、こちらを振り向きもしない。
「ご飯くらい頼むよ、俺は疲れてる」
鞄を置いて、ソファに沈む。それが俺の帰宅だった。少しだけ息子を見ていてほしいと妻に頼まれても、会議が長引いたと返せば済む話だった。
それでも俺は、自分をよくやっている父親だと思っていた。
休みの日に十分ほど抱っこすれば、周りは「イクメンだね」と言ってくれる。夜泣きも、オムツも、保育園の準備も、洗濯も、俺の頭の中では家事の数に入っていなかった。
「明日の連絡帳、書いてくれる?」
「明日でいいだろ、そんなの」
妻の返事はなかった。その夜も、連絡帳は朝までに書き終わっていた。
代わりに回した1日
妻が高熱で動けなくなったのは、梅雨の終わりだった。
「ごめん、今日は起きられない」
「大丈夫、1日くらいなんとかなる」
本気でそう思っていた。
朝六時。息子が布団の上で泣き始めた瞬間から、俺の1日は崩れ出した。ミルクを温める間に着替えをぐずられ、着替えさせている間に食パンが焦げる。
「パパ、それお茶じゃない」
保育園に着いたのは、いつも妻が出ている時刻より三十分も遅かった。玄関で先生に呼び止められる。
「お着替え袋、今日は入ってないみたいです」
頭が真っ白になった。妻は毎朝、これを全部そろえてから出ていたのか。
家に戻れば、流しに朝の皿。洗濯機の中には昨日の分。掃除機の音で妻が起きないよう気を遣いながら、床のパンくずを拾った。
座ろうとするたび、次の何かが目に入る。終わりが来ない。
夕方、息子を迎えに行って、夕飯を作って、風呂に入れて、寝かしつけた。時計を見たら、二十三時を回っていた。
寝室の襖が開いて、妻が水を取りに出てきた。
「……なあ、これ、毎日?」
「うん、毎日」
「いや、でもさ、俺は仕事もあるし」
言いかけて、口をつぐんだ。妻は責めもせず、コップに水を注いでいる。
「疲れてるって、あなた言ってたよね」
「私も疲れてるって、何度も言ったんだけどな」
コップを持った妻の手は、まだ震えていた。それでも背筋は伸びていた。俺は、その場から動けなかった。
「明日から、俺がやる。今日みたいには、できないけど」
「じゃあ、覚えて」
翌週から、保育園の準備は俺の担当になった。連絡帳も、洗濯物も、順番に覚えていった。忘れる日もある。手際も妻には遠く及ばない。
それでも今は、息子が泣いた夜に先に起きるのは俺だ。妻はもう、俺に頼まなくなった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














