「玄関の前で、ずっと待ってたんだよ」隣人との微妙な関係。だが、隣人の子供を見て感じた本音
ドアの前で耳を澄ます
玄関のドアノブに手をかけてから、少しのあいだ耳を澄ます。四年のうちに、そんな癖がついていました。
隣に越してきた家族の男の子が、うちのドアの音を聞き分けるからです。音がすると、庭を走ってきます。
「ヤッホー」
明るい声です。手を振り返すと、もう一度返ってきます。十回でも二十回でも、その子は飽きませんでした。
先にやめるのは、いつもこちらです。背中を向けて車に乗り込む瞬間の、あの申し訳なさが苦手でした。
「今日は静かだね」
息子がサンダルをつっかけながら言いました。私は返事をしないで、ドアを細く開けたままでいました。
声をかけられない人
その子の母親、つまり隣の奥さんとは、四年のあいだ一度も話したことがありませんでした。
ご主人は穏やかな方で、庭で顔が合えば天気の話をします。
奥さんのほうは、ごみ捨て場でも店の通路でも、こちらに気づくと下を向いて離れていきます。
「人と話すのが苦手なんだよ、きっと」
夫はそう言いましたが、私のほうも、いつからか隣の窓を気にして暮らすようになっていました。息子が外で遊ぶと言えば、まず時計を見て、それから隣の車があるかどうかを確かめます。
待っていた、と言われて
夕方、息子が縄跳びを持って庭に出ました。私はドアの内側に立ったまま、出るかどうか決められずにいました。
「ヤッホー」
案の定、声がしました。息子が跳びはじめると、フェンスの向こうで数を数える声が重なります。
「いち、に、さん」
十を過ぎたところで縄が足に引っかかって、二人で笑っていました。
私はようやくサンダルを履いて、庭に下りました。
「おばちゃん、おそいよ」
「ごめんね。何してたの」
「玄関の前で、ずっと待ってたんだよ」
その子はフェンスの隙間から、縄の端をこちらに渡そうとしました。ドアの内側で息を止めていたのは、私のほうでした。
「いっしょにやろう」
縄の端を持って、三人で回しました。二階の窓が開いて、隣の奥さんが顔を出したのはそのときです。
「……すみません」
「いえ、私が誘われたので」
奥さんは口を開きかけて、それから、下から見上げてくる自分の子を見ました。窓の枠に手を置いたまま、小さく頭を下げます。
「明日も、いいですか」
縄の音に混じって、その声はちゃんと聞こえました。私は、ドアの前で耳を澄ますのをやめました。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














