「危ないので、お子さんを下ろしてください」座敷の卓に座った1歳くらいの子供。店員が静かに繰り返した言葉
座敷の卓の真ん中に、小さな背中があった
日曜の昼下がり、2歳の息子を連れて家族三人でうどんの店に入った。
座敷はすでに埋まっていて、私たちは通路ぎわのテーブル席に案内された。待合の椅子にも人が並び、店内は家族連れでにぎわっていた。
少しして、通路をはさんだ座敷に、祖父母らしい二人と母親らしい女性、それに小さな子どもが二人上がった。上の子は幼稚園くらいで、下の子は1歳くらいに見えた。
料理を待っているうちに、下の子がじっとしていられなくなった。
座布団から立ち上がって卓のまわりを歩き、今度は座敷の出入口へ向かおうとする。
「ほら、こっちおいで。もうすぐごはん来るから」
年配の女性が呼び戻しても、子どもはすぐにまた立ち上がった。
「もう、しょうがないなあ」
女性は少し困ったように笑って、その子を抱き上げた。
膝に乗せるのだろうと思った次の瞬間、子どもは座卓の真ん中に、こちらへ背中を向けて座っていた。
息子が箸置きを触っていた手を止めた。
「ママ、あれ」
「うん、見えてるよ。指さすのはやめようね」
息子はもう一度座卓のほうを見て、小さな声で言った。
「テーブル、だめ?」
「危ないからね」
そう答えながら、私も少し落ち着かない気持ちになった。
三度目で、ようやく話が通じた
そこへ、お茶のポットを持った店員が通りかかった。
座卓の上にいる子どもに気づくと足を止め、座敷のほうへ声をかけた。
「すみません。危ないので、お子さんを下ろしてください」
ただ、店内はかなりにぎやかだった。年配の女性は上の子のおしぼりを開いていて、気づいていない様子だった。
店員は少し近づいて、もう一度声をかけた。
「すみません、お子さん、危ないので下ろしてください」
今度は女性が顔を上げた。
「え?」
店員は座卓の上を示しながら、もう一度ゆっくり伝えた。
「お子さんです。危ないので、卓から下ろしてください」
そこで女性も意味が分かったようだった。
「あ、すみません。じっとしてくれなくて…」
困ったように子どもへ手を伸ばす。
店員は責めるような口調ではなく、
「お子さん用の椅子があります。すぐ持ってきますね」
と言って、その場を離れた。
ほどなくして、店員は子ども用の椅子を抱えて戻ってきた。
「こちら、使ってください」
「すみません。ありがとうございます」
女性は子どもの脇に手を入れて卓から下ろし、そのまま椅子に座らせた。
間もなく、熱い丼が次々と運ばれてきた。少し前まで子どもが座っていた場所にも、湯気の立つ器が置かれた。
息子もそれを見ていた。
「あついね」
「うん。だから危なかったんだよ」
息子は分かったような、分からないような顔でうなずいた。
食事を終えて店を出ると、夫が駐車場へ向かいながら口を開いた。
「さっきの子、あそこにいたら危なかったな」
「うん。店員さん、何回も声かけてたね」
「最後まで落ち着いてたな」
すると夫に抱かれていた息子が、両手を少し広げた。
「ぼく、おいす」
夫と顔を見合わせて、思わず笑った。
「うん。椅子に座ろうね」
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














