tend Editorial Team

2026.09.18(Fri)

「空いた電車で、その席をどけ、と怒鳴った男性」ガラガラの車内で若者に詰め寄った人に、車掌さんが告げた言葉

「若い人が譲るもんじゃないのか」空席だらけの電車で若者に詰め寄った男性。車掌さんが静かに示した別の席

日差しの入る昼の車両

平日の休みに、少し遠くの街まで出かけることにした。昼間の電車はすいていて、長い座席にも空いている場所が目立っていた。

私はドアの近くに座っていた。少し離れたところでは、20歳前後に見える男性が一人、イヤホンをつけて文庫本を読んでいた。

途中の駅で、年配の男性が乗ってきた。

男性は車内を歩いてきて、なぜか本を読んでいる若い男性の前で足を止めた。

「おい、そこ。ちょっとどいてくれ」

若い男性はイヤホンを外し、戸惑った顔を上げた。

「え…僕ですか?」

「そうだよ。年寄りが立ってるんだから、普通は譲るだろ」

少し強い声が、静かな車内に響いた。

若い男性は周囲を見た。近くにも空席はいくつもある。それでも男性に詰め寄られ、どう返したらいいのか分からない様子だった。

「でも、ほかにも席は…」

小さくそう答えると、男性は眉をひそめた。

「そういう問題じゃないだろ。若い人が譲るもんじゃないのか」

若い男性は黙り込み、閉じた文庫本を膝の上に置いた。

見回りに来た車掌さん

このままでは若い男性が立ってしまいそうだった。

私は少し迷ったものの、男性に声をかけた。

「あの、こちら空いてますよ」

私の近くの空席を示すと、近くに座っていた年配の女性も続けた。

「こっちも空いてますよ。どうぞ」

ところが男性は納得できない様子で首を振った。

「いや、席があるとかじゃなくてさ…こういうのは若い人が譲るもんだろ」

そのとき、後ろの車両から見回りに来た車掌さんが入ってきた。

車掌さんは立ったままの男性と、座席の若い男性を見て足を止めた。

「どうされましたか?」

男性は若い男性を指すようにして答えた。

「この人に席を譲ってもらおうと思っただけだよ」

車掌さんは周囲を見渡した。空いている席はまだいくつも残っている。

「そうでしたか。こちらにも空いているお席があります。電車も揺れますので、よろしければそちらへお掛けください」

声は穏やかでしたが、はっきりした言い方だった。

男性は一瞬黙り、改めて周囲を見た。

「…まあ、いいけど」

そう言うと、若い男性の前から離れ、数席先の空いた場所に腰を下ろした。

車掌さんはそれ以上何も言わず、若い男性にも軽く会釈してから次の車両へ向かった。

若い男性はしばらく黙っていたが、やがて私たちのほうを向いた。

「すみません……ありがとうございました」

「いえ、大丈夫ですよ」

近くの女性がそう答えると、若い男性は少しほっとしたように笑い、もう一度文庫本を開いた。

男性にも「若い人が席を譲るもの」という考えがあったのでしょう。ただ、あの日の車内には座れる場所が十分にありました。

誰かを強く責めるのではなく、「空いているお席があります」と事実だけを伝えた車掌さんの言葉が、一番すんなりその場を収めていたのが印象に残っています。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.09.20(Sun)

「できれば窓側がよかったんだけど」他人の指定席に座っていた女性。だが、車掌の確認で分かった勘違い
tend Editorial Team

NEW 2026.09.20(Sun)

「子どもは多いほうがいいよ。元気なうちにね」スーパーで話しかけてきた初対面の男性。後日、再会した私が逃げたワケ
tend Editorial Team

NEW 2026.09.20(Sun)

「あの席、まだ片付かないんですか?」窓ぎわの席をめぐって止まったレジ。だが、店長が示した別の選択肢
tend Editorial Team

RECOMMEND

2025.11.15(Sat)

【急逝・菅谷アナ】水卜麻美アナが明かす“理想の上司”像に「めちゃめちゃ良い先輩やったんやろな。」とネット民しみじみ
tend Editorial Team

2026.02.23(Mon)

「え…うそでしょ?」旅行中、スマホをポストに落としてしまった。コンビニの店員に助けを求めるも…
tend Editorial Team

2025.12.10(Wed)

「お年玉は?」30歳になっても貰おうとするニートの息子。だが、父の一言で顔面蒼白に【短編小説】
tend Editorial Team