「だって、置いていくわけないじゃない」団体旅行のバスを待たせた女性。だが、楽しみにしていた建物の前で固まったワケ
出発時刻を過ぎても戻ってこない女性
団体旅行で観光地をめぐっていたときのことです。
朝、バスが走り出してしばらくすると、前の席から楽しそうな話し声が聞こえてきました。
話していたのは、私より少し年上に見える女性の参加者でした。
「今日はね、奥の建物を見るために来たのよ。ずっと楽しみにしてたんだから」
その弾んだ声が印象に残っていました。
昼になり、バスは高速道路のサービスエリアで休憩に入りました。
参加者たちは出発時刻を気にしながら買い物やトイレを済ませ、次々とバスに戻ってきます。
ところが、出発時刻になっても、朝あれほど楽しそうに話していた女性の席だけが空いたままでした。
添乗員の若い女性は、バスの入口で携帯電話を耳に当てながら外を見ています。やがて電話を下ろすと、サービスエリアの建物へ駆けていきました。
車内には、少しずつ落ち着かない空気が広がっていきます。
「まだ戻らないのかしら…」
通路をはさんだ席の年配の女性が、困ったようにつぶやきました。
それからかなり時間がたって、ようやく女性が戻ってきました。
両手には、ふくらんだお土産の袋がいくつも提げられています。
添乗員が女性に声をかけました。
「皆さん、ずっとお待ちだったんですよ」
すると女性は、お土産の袋を少し持ち上げ、あっさりと言いました。
「お土産を選んでたの」
謝る様子もなく席に戻った女性は、周囲を見回して笑います。
「だって、置いていくわけないじゃない。団体なんだから」
その言葉に、車内はしんと静まり返りました。
私も思わず女性のほうを見てしまいましたが、本人はそれほど気にしていないようでした。
結局、バスは予定より大きく遅れて出発することになったのです。
楽しみにしていた建物の前で、女性が絶句
次の観光地に着くと、添乗員は手前にある見どころを手早く案内していきました。
例の女性も、大きなお土産の袋を腕に提げながら、列の後ろを歩いています。
やがて、奥の建物へ続く入口の前に着いたときのことです。
添乗員が足を止め、参加者たちに向き直りました。
「皆さま、申し訳ありません。観光の時間が短くなってしまったため、ここからバスへ戻ります」
すると、あの女性が慌てて列の前へ割って入りました。
「えっ、奥の建物は?私、あそこがいちばん楽しみだったのに!」
朝の明るい声とは打って変わり、焦った様子です。
添乗員は落ち着いた声で答えました。
「申し訳ありません。出発が遅れた分、今回は奥の建物までご案内できなくなりました」
「え……そんな……」
女性は口を開いたまま、言葉を失っていました。
周囲の参加者も何も言いません。ただ、女性が腕に提げている大きなお土産の袋に、ちらりと視線が集まっていました。
添乗員が旗を上げ、参加者たちをバスへ案内し始めます。
女性はお土産の袋を握りしめたまま、立ち尽くしていました。
しばらくして、女性も黙ってバスに戻ってきました。
それからの休憩では、女性はいつも誰よりも早く席に戻るようになりました。
あれほど楽しみにしていた建物を見られなかったことが、よほどこたえたのかもしれません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














