「鯛は俺がさばく。素人は出ていけ!」と元板前を名乗り姪を追い払おうとする叔父。まな板の前で迎えた末路
新築祝いの台所で出ていけと言われた日
叔父は腕を組み、脇に立つ私に台所から出ていけと言いました
春の日曜、叔父が建てた新居の新築祝いに呼ばれ、私は魚屋で選んだ尾頭付きの鯛を持って台所へ入りました。
祝いの席に出してもらうつもりで、朝一番に買った鯛です。
魚屋には、うろこと内臓の下処理だけお願いしていました。
広い台所の中央にはアイランド型の調理台があり、まな板が置かれています。
調理台の前に立つ叔父は、私が持ってきた鯛をまな板に置くと、腕を組んで胸を張りました。
「鯛は俺がさばく。素人は出ていけ!」
叔父は脇に立つ私をにらみ、調理台のそばに置いた包丁ケースに手をやりました。
「この包丁は、俺の特注の一本だ。」
叔父は板前を20年やったと言い切り、台所に二人だけが残りました
叔父は母の弟で、親戚が集まれば誰も逆らえない人です。
鯛を持ってきたのは私なのに、と思っても、言葉が出ませんでした。
叔父は最近、遠い町からこの町へ戻ってきたばかりです。
長く離れて暮らしていたため、少なくとも私は叔父の以前の仕事を詳しく知りませんでした。
引き戸の向こうの広間では、親戚が先に酒を飲み始めています。
先ほど、叔父が『祝いの魚は俺がさばく』と宣言したばかりです。
叔母は広間で客の相手に追われ、台所へ来られません。
台所には叔父と私の二人だけでした。
「俺は板前を20年やった。」
叔父は『板前を辞めて何年にもなるが、今も毎週さばいている』と言い足しました。
「魚が悪くても、失敗は一度もない。」
言い返せない私が叔父に頼んだこと
鯛をさばこうとした叔父は骨に刃を引っかけ、何度も切り直すうちに身を崩してしまいました
せめて朝一番に選んだ鯛の行く末だけは見届けたい、と思いました。叔父の機嫌を損ねない頼み方は、持ち上げることだけです。
「板前の技を、習わせてください。」
叔父の口の端が、ゆるみました。宣言したばかりの手前、頼られて引っこむ人ではありません。
『板前の手並みを、よく見ておけ』と言って、私がそばで見ていることを認めると、特注の包丁を握りました。
叔父は鯛の頭の根元に刃を入れ、一気に引きました。
ところが刃は硬い骨に引っかかって止まりました。叔父は力まかせに包丁を動かし、何度も角度を変えて切り直します。
しかし、うまく骨に沿って切り進められず、身は不ぞろいな切れ端になっていきました。
まな板の上には、形の崩れた鯛の身が残りました。自信満々だった叔父の顔から、笑みが消えていました。
叔父は包丁をまな板に置き、エプロンの紐をほどきました
叔父は包丁を握ったまま、崩れた身を見下ろしました。
「この鯛が悪いに決まってる!」
魚が悪くても失敗しないと言い切ったのは、叔父自身です。包丁も、自慢の特注の一本でした。
「魚のせいには、できません。」
叔父は口を一文字に結び、包丁をまな板に置きました。
『皿洗いのころは、板さんがこんな鯛を…』とまで口走り、はっと口を閉じました。
私は、叔父が皿洗いをしていたころの話をもう少し聞いてみました。
すると叔父は、実際には数か月間、料理店で皿洗いをしていただけで、板前として魚をさばく仕事はしていなかったと、気まずそうに認めたのです。
20年間板前をしていたという話も、毎週魚をさばいているという話も、見栄を張って口にしたものだったようです。
そのとき、広間から『鯛はまだか』と親戚の声が飛びました。
叔父は何も言い返さず、エプロンの紐をほどきました。出ていけと言った台所から、先に出ていったのは叔父でした。
私は叔母に事情を説明し、残った鯛の身で鯛めしを作らせてもらうことにしました。崩れた身から骨を丁寧に取り除き、軽く焼いてから、米や調味料と一緒に炊き込みました。
出来上がるまで少し時間はかかりましたが、広間には無事に鯛めしを出すことができました。叔父はそれ以上、料理の腕前を自慢することはありませんでした。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














