tend Editorial Team

2026.06.26(Fri)

「これあんたの荷物だから持っていき」と返された荷物。中のマフラーを見て言葉を失ったワケ

「これあんたの荷物だから持っていき」と返された荷物。中のマフラーを見て言葉を失ったワケ

久しぶりの祖母の家で

高校生になったある朝、私は祖母の家の片づけを手伝いに行った。玄関を入ると、線香の匂いと畳のにおいが昔のまま鼻をくすぐった。久しぶりに見る祖母は、少しだけ背中が丸くなっていた。

掃除や荷物の運び出しを終えて帰ろうとしたとき、祖母が古びた段ボールを足元に押し出してきた。中身は見えなかった。

「これあんたの荷物だから持っていき」

覚えのない荷物だった。何だろうと傾けると、色あせた小物の隙間から、毛糸がちらりと見えた。

指でつまんで引き出した瞬間、息が止まった。あちこちがよれた、不格好な手編みのマフラー。小学生の私が、まめのできた手で何時間もかけて編んだものだった。

あの「ありがとう」の正体

記憶がよみがえる。あれは小学生の冬。初めて握った編み棒で、毛糸を何度も結び目にしながら、私はこれを編み上げた。大好きな祖母のために。寒い朝に巻いてほしくて、それだけを願いながら。

正月に両手で手渡したとき、祖母は確かに笑ってくれた。よれた毛糸を、いとおしそうになでてくれた。

「ありがとう、大事にするね」

そのひと言を信じて、私はずっと、祖母がこれを首に巻いてくれていると思い込んでいた。寒い日に祖母を見るたび、あのマフラーを探していたほどだ。

「おばあちゃん、これ、わたしが編んだやつだよ」

そう言うと、祖母は手元の新聞から顔も上げなかった。

「あら、そうだったかね。もう要らないから持っていき」

その声に、ためらいは少しもなかった。捨てるのは気が引けるから、孫に押し付ける。それだけのことだったのだ。一度でも首に巻いたのか、ずっと引き出しの奥で眠っていたのか、確かめる気にもなれなかった。

あの「ありがとう」が、ただの社交辞令だったと知れた瞬間、背筋がぞわりと冷たくなった。悪意があったわけではない。だからこそ怖かった。喜んでくれていると信じた数年が、一本の毛糸とともに静かに崩れていった。

私はしばらく玄関で動けなかった。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.10.05(Mon)

「えー、かわいい!これ着る!」買い物に失敗したと思った母。数年後、娘を見て笑った理由
tend Editorial Team

NEW 2026.10.05(Mon)

「昨日のは、なんていう曲?」隣のお風呂の歌声を気にしていた私。だが、ママ友の一言で固まった理由
tend Editorial Team

NEW 2026.10.05(Mon)

「Mなら余裕だよ」とサイズ表を見なかった私。だが、届いたジャケットを長男が着て分かった勘違い
tend Editorial Team

RECOMMEND

2026.04.02(Thu)

「最高です」「また会えた」吉岡里帆、4年ぶりのどんぎつね復活に歓喜の声 黒ドレス姿にも反響
tend Editorial Team

2026.06.01(Mon)

エース級アナウンサーが次々とテレビ局を去る背景とテレビ業界の変化およびアナウンサーの将来的な消滅の可能性
tend Editorial Team

2026.08.05(Wed)

「ご飯は手作りにしなさい、本当に手抜きね」私の育児をいちいち否定し続けた義母に、夫が返した意外な一言
tend Editorial Team