「うちは席がなかった、香典は持って帰る」祖父の葬儀で食事がないと怒る叔父→年長者の一言で凍りついたワケ
受付に詰め寄った叔父
祖父の葬儀には、地方の親戚が大勢集まった。義父まで新幹線で駆けつけてくれて、私はそのありがたさに頭が下がる思いだった。
問題は、式のあとの食事の席だった。会場が手狭で、参列者全員が一度には入れない。係の人の案内で、孫の中で一番下の私たち夫婦と、遠方から来た義父が先に通されることになった。
そのぶん、従姉妹夫婦は次の回に回ってもらう形になった。私は心の中で手を合わせ、申し訳なさを抱えたまま膳に向かった。隣の義父も、恐縮した様子で何度も周りに会釈をしていた。
席に着いても、料理の味はよく分からなかった。後ろに控えている親戚のことが、ずっと気にかかっていたからだ。
ところが、食事を終えて席を立った頃、廊下で怒鳴り声が上がった。声の主は、従姉妹の父である叔父だった。
「うちは席がなかった、香典は持って帰る」
娘夫婦が食事に入れなかったことに腹を立て、受付に置かれた香典を取り戻そうとしているらしい。場の全員が、息を呑んで動きを止めた。
凍りついた叔父
騒ぎを聞きつけ、奥から年長の伯父が出てきた。祖父の長男であり、この日の喪主を務めていた人だ。
伯父は声を荒らげることなく、叔父の前に立った。
「香典は、父への弔いの気持ちだ。食事の代金じゃないんだ」
静かな、しかし揺るがない一言だった。叔父の動きが、その場でぴたりと止まる。廊下に出ていた親戚たちも、足を止めて伯父の言葉に耳を傾けた。
「席が足りなかったのは、こちらの落ち度だ。それは詫びる。だが、親父に手を合わせた気持ちを、金勘定で返せとは言えんだろう」
叔父の顔が、みるみる強張っていった。反論を探すように視線が泳いだが、口からは何も出てこない。
周囲の親戚は、誰も叔父をかばわなかった。冷たい沈黙だけが、廊下に満ちていく。隣に立っていた叔母が、見かねたように夫の腕をそっと引いた。
「……すまなかった」
叔父は持ち上げかけた香典袋を、震える手で元の盆に戻した。あれほどの剣幕が、潮が引くように消えていた。
後で聞いた話では、叔父はその夜のうちに喪主へ電話をかけ、改めて頭を下げたという。冷静になって、自分が何をしようとしたか、ようやく分かったのだろう。
次に親戚が顔を合わせたとき、叔父はずっと隅で小さくなっていた。
祖父を見送る大切な一日に、思いがけない揉め事は起きた。それでも、筋を曲げなかった伯父の一言が、すべてをあるべき形に戻してくれた。
あの落ち着いた声を、私はきっと一生忘れない。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














