「絶対に井戸は埋めないわ」義実家の建て替え時に反対した義母。5年後、私が見た光景に唖然
図面の上で止まった手
古くなった義実家を二世帯住宅に建て替える。
話が動き出したのは、五年ほど前のことでした。
間取りも外壁も、驚くほどすんなり決まったのです。
揉めたのは、たった一か所だけでした。
駐車場にする予定だった庭の隅に、古い井戸が残っていました。
義父の代より前に使っていたきりで、今はもう水も汲めません。
石の縁は苔むして、まわりには枯れ葉がたまったままでした。
「ここは埋めさせていただきますね」
工務店の担当者がそう言った瞬間、義母が図面の上に手を置きました。
「駄目、そこだけは触らないで」
あそこには水神様がいる。昔からの言い伝えだからと。
上乗せされた五十万
それから、話し合いは何度も仕切り直しになりました。
井戸を残して駐車場にするには、車の重さに耐える蓋を別に造るしかない。
担当者が出してきた追加の見積もりは、五十万ほどでした。
「絶対に井戸は埋めないわ」
義母の声は、隣の部屋まで響きました。
「私にとっては、命より大事なものなの」
夫は困った顔で私を見ます。義父は新聞から目を上げません。
この家で義母がここまで声を荒らげるのを、私はその時初めて見ました。
「そこまで言うなら、残しましょうか」
誰かがそう言って、話は終わりました。五十万は、そのまま総額に乗ったのです。
その頃の義母は、毎日のように工事の様子を見に来ていました。井戸のまわりに人が近づくたび、外から「気をつけてね」と声を張っていたのを覚えています。
蓋の上に停まる車
家が建ち、五年が過ぎました。
井戸は丸い鉄の蓋で塞がれ、今は駐車場のちょうど真ん中にあります。
最初にその上へ車を入れたのは、義父でした。
「お義父さん、そこ大丈夫ですか」
「知らんよ、停められるんだから」
台所にいた義母は、窓からちらりと見ただけです。何も言いませんでした。
それ以来、うちの車も、来客の車も、当たり前のようにその上に停まります。宅配の軽トラックが乗り上げても、同じでした。義母が咎めたことは、一度もありません。
お参りをする姿も、見たことがない。手を合わせるどころか、蓋のそばを歩くことすらないのです。
去年の暮れ、庭の掃除のついでに聞いてみました。
「井戸、お供えしなくていいんですか」
「あら、そんなの必要ないでしょう」
あっけらかんとした返事でした。
五十万をかけて残した、命より大事なはずのもの。今は、誰の視線も向かない鉄の蓋です。
あの時の義母の剣幕だけが、私の中にぽつんと残ったままでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














