「当たり、まだ出ないね」コンビニのくじを引き続ける客。だが、高校生の私が言えなかった言葉とは
言えなかった言葉が、喉の奥に残った
今でもときどき、高校生のころに働いていたコンビニでの出来事を思い出します。
当時、店では700円の購入ごとに、くじを1枚引けるキャンペーンを行っていました。レジ横の箱から折った紙を引き、当たりが出ればその場で商品と交換できる仕組みです。
ある日、お客様が会計を終え、私は金額に応じた枚数のくじを引いてもらうため、箱を差し出しました。
お客さんが1枚引きます。外れでした。
すると、そのままもう1枚。さらにもう1枚と、手を止めずに引き始めたのです。
「当たり、まだ出ないね」
悪びれた様子はなく、引ける枚数を超えていることに気づいていないように見えました。
本当なら、「700円ごとに1枚です」と伝えれば済むことです。
けれど高校生だった私は、どうしても声をかけられませんでした。
相手は自分よりずっと年上です。後ろには次のお客さんも並び始めていて、「注意して揉めたらどうしよう」という考えが頭から離れませんでした。
私は箱に手を添えたまま、何も言えずに立っていました。
店長は、責めずにレシートを確認した
列が少しずつ伸びてきたころ、奥にいた店長がレジへ出てきました。
「失礼します。確認させてくださいね」
店長はカウンターに置かれていたレシートを手に取り、会計金額を確認しました。
そして、くじの箱へ伸びていたお客さんの手に気づくと、穏やかな声で言いました。
「700円ごとに1枚ですので、お引きいただけるのはこちらまでです」
お客さんの手が止まりました。
一瞬だけレシートへ目を落としたあと、それ以上くじを引くことはなく、商品を持って店を出ていきました。
後ろのお客さんが前へ進み、止まりかけていたレジもいつもの流れに戻ります。誰かが声を荒らげることもありませんでした。
あとで私が「すみませんでした」と謝ると、店長は特に責めることなく言いました。
「怒る必要はないよ。決まりを伝えるだけなら、普通に言えば大丈夫だから」
次は、自分の口から言えた
しばらくして、似たような場面がありました。
今度は私が箱をそっと手元へ引きながら、声をかけました。
「700円ごとに1枚となっておりますので、こちらまでです」
相手は「あ、そう」と言って、あっさり手を引きました。
そのとき初めて分かりました。あの日、私が言えなかった言葉は、相手を責めるための言葉ではありませんでした。
ただ決まりを伝えるだけなら、必要以上に強く言う必要もない。店長の静かな対応を見たことで、私は少しだけ接客の仕方を覚えたのだと思います。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














