「ちょっと詰まっちゃったみたいで」お隣さんとのベランダの水問題。だが、お隣さんの勘違いが発覚
仕切り板の向こうから、ほうきの音がした
マンションのベランダには、うちの側にだけ排水口があります。
雨が降ると、お隣のベランダの水も仕切り板の足元を通ってこちらへ流れてくる造りでした。
そのため、雨上がりには砂や枯れ葉が排水口の周りに集まります。私はいつも、ほうきで集めてから取り除いていました。
ある日、落ち葉がたまって水が引きにくくなったことがあります。
ベランダへ出て掃除をしていると、仕切り板の向こうから奥様の声がしました。
「そっち、水たまってない?さっき雨、結構降ったものね」
「そうなんです。ちょっと詰まっちゃったみたいで」
すると、向こうからもほうきを掃く音が聞こえ始めました。
「じゃあ、こっちも掃いておくわ。うちの落ち葉も行ってるかもしれないし」
「ありがとうございます」
そう答えたものの、少しして気づきました。
仕切り板の足元の隙間から見える砂が、こちらへ流れてくるどころか、向こう側へ戻っていくのです。ときどき見えるほうきの先も、排水口とは反対の方向へ動いていました。
どうやら奥様は、水や砂をこちらへ来ないように掃いているようでした。
その場で言えばよかったのですが、せっかく手伝ってくださっているのに、「向きが逆です」と言うのも気が引けます。
結局、その日は何も言えませんでした。
その後も雨上がりにほうきの音を聞くことがあり、そのたびに「今度こそ」と思うのですが、なかなか切り出せないままでした。
「え、こっちに流してよかったの?」
ある晴れた朝、また仕切り板の向こうから、さっさっとほうきの音が聞こえてきました。
私はベランダへ出て、思い切って声をかけました。
「あの、ちょっといいですか?」
「なあに?」
「排水口、うちの側にあるんです。だから水とか砂、こっちに流してもらって大丈夫ですよ」
向こうのほうきの音が、ぴたりと止まりました。
「え、こっちに流してよかったの?」
「はい。そのまま排水口に流れるので」
少し間があってから、奥様の笑い声が聞こえてきました。
「あらやだ。私、そっちに流したら迷惑だと思って、ずっと反対に掃いてたわ」
「やっぱり、そうだったんですね」
「せっせと逆へやってたのね、私」
その言い方がおかしくて、私も笑ってしまいました。
奥様は迷惑をかけないようにと思って掃いていて、私は手伝ってくれている相手に言いづらくて黙っていた。ただ、それだけのすれ違いだったのです。
その日は奥様が自分の側の砂を仕切り板の足元まで寄せ、流れてきた分を私が排水口の周りで集めました。
「こっちでいいのよね?」
「はい、今度はばっちりです」
二人でやると、いつもの掃除よりずっと早く終わりました。
「次からは間違えないわ」
それ以来、雨上がりにベランダで顔を合わせると、「今日、掃きます?」と声をかけ合うようになりました。
言いにくいと思っていたことも、話してみればほんの小さな勘違いでした。今では雨のあとにほうきの音がすると、あの朝のことを思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














