「同じ部屋は無理です。私は別に取ります」遠征先で一部屋しか取られていなかったホテル。ホテルのロビーで知った講師の考えに唖然
ロビーで聞いた、思いがけない一言
社交ダンスの競技会に出ていたころ、私には決まった競技パートナーがいました。
教室で教わっていた男性講師は六十代で、二十年近く組んできた女性講師がいました。
ただ、そのころは教室でも二人がほとんど会話をしない日が続いていて、空いた時間に私が呼ばれ、女性講師の代わりに相手役をすることが増えていました。
そんな時期に、県外で開かれるパーティーへの出演が決まりました。
講師は相手役に私を指名し、会場が遠かったため、前日から現地に入ることになりました。
宿は講師がまとめて手配すると聞いていたので、私は当然、別々の部屋だと思っていました。
ところが前日、ホテルに着いてチェックインを済ませたあと、講師が持っていたキーケースは一つだけでした。
気になって、私は聞きました。
「先生、私の部屋はどこですか?」
すると講師は、不思議そうな顔をしました。
「部屋は一つでいいだろ。君となら、そんなに気をつかわなくて済むし」
思わず聞き返しました。
「え…同じ部屋に泊まるってことですか?」
「そうだけど。今さらそんなに構えなくてもいいだろ」
「いえ、私は別の部屋だと思っていました」
私がそう言うと、講師は少し困ったように息をつきました。
「そんなに他人行儀にしなくてもいいじゃないか」
ダンスで息が合うことと、同じ部屋に泊まることは別の話です。
胸の奥がざわつきましたが、ここで曖昧に笑ってしまったら、受け入れたことになってしまう気がしました。
「すみません。でも、同じ部屋は無理です。私は別に取ります」
「いや、そこまでしなくても……」
「大丈夫です。自分で払いますから」
私はそのままフロントへ向かいました。
翌朝、控室で交わした短い会話
幸い空いている部屋があり、その場で自分用に一室取ることができました。
部屋に入ってドアを閉めたとき、ようやく少し肩の力が抜けました。出演前日に気まずくなるのは避けたかったものの、断ったことを後悔する気持ちはありませんでした。
翌朝、ホテルを出て会場へ向かいました。
控室に入ると、講師はすでに鏡の前で準備をしていました。私に気づくと一度こちらを見ましたが、すぐに視線を戻しました。
私も昨夜のことには触れず、普段どおり挨拶しました。
「おはようございます」
「…おはよう」
衣装を整えていると、しばらくして講師のほうから声をかけてきました。
「昨日、部屋は取れたのか?」
「はい。空いていたので大丈夫でした」
「そうか」
それ以上、講師が宿のことを口にすることはありませんでした。
やがて出番になり、私たちは予定していた演目を最後まで踊りました。音楽が始まれば、いつものように相手の動きを見て、自分の足元に集中するしかありません。
出演を終えて控室に戻ったとき、私はようやくほっとしました。
前日の出来事がなかったことになったわけではありません。それでも、「嫌なものは嫌だ」とその場ではっきり伝えられたことで、自分の中では一線を引くことができました。
ダンスでは相手との信頼や距離の近さが必要になることがあります。でも、それと私生活でどこまで近づくかは別の話です。
あの夜、自分の感覚を押し込めずに別の部屋を選んだことは、今でも間違っていなかったと思っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














